1.はじめに
前回は個人所得課税と資産課税に関わる主な改正点についてご説明いたしました。
今回は、全3回にわたる平成28年度税制改正についての最終回です。
前2回でご説明いたしました改正点は、法人税法、所得税法及び相続税法をはじめとする各税法に関する改正内容でした。
今回は、これら税法全般に関わる納税環境整備に係る主要な改正点について、ご説明いたします。
2.クレジット納付制度
現在、住民税や固定資産税、自動車税などの一部の地方税について、クレジットカードによる納付を可能とする地方自治体が増えていますが、国税についてはクレジットカードによる納付をすることはできません。
今年の改正では、国税の納付手段の多様化を図る観点から、平成29年1月から国税の納付についても インターネット上でのクレジットカード決済による納付を可能 とする制度が盛り込まれました。
具体的には納付書で納付できる国税を対象とし、税目、納付額について制限なく適用することができます。
このクレジット納付制度のメリット・デメリットとして、以下の内容が考えられます。
メリット |
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デメリット |
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3.マイナンバーの記載対象書類の見直し
マイナンバーを記載することによる本人確認手続きなど、納税者の負担が増加することを踏まえ、マイナンバーを記載しなければならないこととされている税務関係書類(申告書及び調書を除く)のうち、 一定の書類についてはマイナンバーの記載を不要とされる 見直しが行われました。
主な書類として以下の書類が挙げられます。
(1) 所得把握の適正化・効率化に影響を及ぼさないと考えられることから、記載を不要とする書類
適用期間 | 具体的な届出書等の例 |
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平成28年4月1日以後に 提出すべき書類に適用 |
・給与所得者の保険料控除申告書 ・給与所得者の配偶者特別控除申告書 ・給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 |
(2) 申告等の主たる手続きと併せて提出されることが想定されること等から、記載を不要とする書類
適用期間 | 具体的な届出書等の例 |
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平成29年1月1日以後に 提出すべき書類に適用 |
・所得税の青色申告承認申請書 ・所得税の棚卸資産の評価方法の届出書 ・消費税簡易課税制度選択届出書 ・相続税延納・物納申請書 ・納税の猶予申請書 |
また、従業員等が勤務先等に対して下記の申告書を提出する場合において、その勤務先等が既に該当する申告書の提出に基づき従業員等の個人番号を預かっているときは、その2回目以降に提出する際は、その従業員等の個人番号の記載は不要とされます。
適用期間 | 対象となる申告書 |
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平成29年1月1日以後に 提出すべき書類に適用 |
①給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 ②従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書 ③公的年金等の受有者の扶養親族等申告書 ④退職所得の受給に関する申告書 |
4.加算税の加重
(1)無申告又は仮装・隠蔽が繰り返し行われた場合の加重措置
悪質な行為を防止する観点から、過去5年以内に無申告加算税又は重加算税を賦課された納税者が、再び「無申告又は仮装・隠蔽」に基づく修正申告書の提出等を行った場合については、平成29年1月より、加算税を10%加重する措置が導入されます。
◆無申告の場合
税目 | 改正前 | 改正後 |
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無申告加算税 | 15%(※20%) | 25%(※30%) |
※無申告加算税が課される納付すべき税額のうち、50万円超の部分が対象となります。
◆仮装・隠蔽の場合
税目 | 改正前 | 改正後 |
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重加算税(過少・不納付) | 35% | 45% |
重加算税(無申告) | 40% | 50% |
(2)税務調査事前通知後の修正申告等に係る加算税の導入
現在、税務調査がある場合には事前通知されることが義務化されていますが、加算税等を回避するために、当該通知後に修正申告や期限後申告を行う納税者が多くみられるようになりました。
これを受け、税務調査の事前通知以後、その税務調査で更正又は決定があることを予知する前に行われた修正申告について、以下の加算税の改正が行われます。
税目 | 改正前 | 改正後 |
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過少申告加算税 | 0% | 5%(※①10%) |
無申告加算税 | 5% | 10%(※②15%) |
※①:期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分が対象となります。
※②:無申告加算税が課される納付すべき税額のうち、50万円超の部分が対象となります。
5.おわりに
今回は、全3回に渡ってご説明してきました平成28年度税制改正の最終回でした。
毎年の税制改正の主な流れとしては、12月中に翌年の税制改正の基本方針である税制改正大綱が発表され、翌年1月から3月にかけて大綱に基づいた税制改正案とそれに伴う予算案が審議され、3月中に可決成立、4月より新しい法律が施行される流れとなっています。
先日の消費税増税の延期のように、税制改正大綱の内容が全てそのまま可決成立するとは限りません。
そのため、事業者の皆さまは一連の流れの中で税制改正の内容を把握していく必要があります。
また、改正点の中に、メリットのある優遇税制がある場合には、対象となる範囲や適用要件、適用期間に注意して確認し、検討することが必要になるでしょう。