新NISAの開始に備えて② ~現行NISAとの違いと留意点~

新NISAの開始に備えて② ~現行NISAとの違いと留意点~

1.はじめに

 前回は投資信託とNISAの概要とメリット・デメリットをご紹介しました。現行NISAも利用価値が高い制度ですが、新NISAは更に利用しやすいものになっています。

 今回は現行NISAと比較しながら新NISAの具体的な内容をご紹介します。制度の移行にあたって留意して頂きたい点もありますので、既にNISA口座をお持ちの方もぜひご確認ください。

2.NISAの2つの枠組み

 新NISAの概要を現行NISAと比較しながらみていく前に、NISAの特徴として、2つの枠があることを確認したいと思います。ここでは説明の都合上、現行NISAに倣い、一般枠とつみたて枠と呼称します。この両者には主に投資対象商品に違いがあります。

 現行の一般NISAが該当する一般枠は、つみたて枠と比較するとリターンとリスクが高いものが投資対象商品となっており、現行の一般NISAでは非課税期間が5年になっていることからも分かる通り、短期投資が前提となっています。

 一方、現行のつみたてNISAが該当するつみたて枠は、一般枠と比較するとリターンとリスクが緩やかなものが対象で、現行の非課税期間も20年となっている通り、長期積み立てを前提とした投資枠です。主に老後資金や子供が小さいうちに始める教育資金積み立て、といった活用が想定されています。

 下表でいうと、青枠の“つみたてNISA”は同じく青枠の“つみたて投資枠”に、緑枠の”一般NISA“は同じく緑枠の”成長投資枠“に引き継がれたような形です。

比較図

3.新NISAと現行NISAの違い

 では新NISAと現行NISAの違いをみていきたいと思います。

年間投資枠の無期限化、口座開設期間の恒久化

 新制度の最大の利点が年間投資枠の無期限化といえるのではないでしょうか。合わせて口座開設期間も恒久化しています。現行制度は時限措置であるため、その期間に投資を行える人しか利用することができません。また、非課税保有期間はつみたてNISAが20年、一般NISAが5年となっており、課税期間を超えて売却した場合は原則通りの所得税が課税される仕組みになっています。しかし、新制度下では、いつでもNISAを開始することができ、自分の望ましいタイミングで、かつ非課税で売却することができるようになります。

年間投資枠・非課税保有限度額の拡大

“つみたて投資枠”においても、“成長投資枠”においても年間投資枠と非課税保有限度額(取得価額で計算される)が拡大されました。しかも新制度では簿価残高方式であるため、非課税保有限度額に達したとしても、保有商品を売却すればその空枠を利用して新たに投資を行うことができます。現行NISAでは、既に保有した商品を売却したとしても、当該売却済み枠を新たに投資に用いることは出来なかったので、より柔軟な制度になったと言えるでしょう。また、現行制度では、“つみたてNISA”か“一般NISA”のいずれか一方しか利用できない選択制でしたが、新制度では併用が可能になります。

投資対象商品

 投資対象商品については新制度と現行制度で大きな違いはありませんが、NISA口座を開設する証券会社によって選択可能な商品に違いがあります。NISA口座は1人1口座しか開設できないため、購入したい対象がある場合は口座開設の前に証券会社の取扱商品を確認するようにしましょう。また“成長投資枠”については一般社団法人投資信託協会のホームページで対象ファンドが順次公開されていますのでチェックしてみるのも良いかもしれません。

4.現行NISAから移管する際の留意点

積立設定が自動で引き継がれるか

 口座自体は現行NISAの口座を開設していればほとんどの金融機関ではそのまま自動で新NISA口座が開設されます。ただし、積立設定(毎月〇〇ファンドを〇円購入するという自動設定等)については金融機関によって異なる可能性があるので確認が必要です。自動引継が基本となっていても、例えば積立設定の対象としている商品が新NISAでは対象となっていない場合等が考えられます。

現行NISAの非課税期間を忘れずに

 前項で、現行NISAと新NISAの非課税保有限度額は別枠で管理されるという点を確認しました。詳しくご説明すると、現行NISAの新規購入は2023年内に限られますが、その後20年間は非課税期間が続きます。この20年間というのは投資開始から20年間なので、毎年積み立ててきたものが一気に非課税期間を超えるというのではなく、一年ごとに計算することになります。

 20年を過ぎて非課税期間内に売却しない場合は通常の課税口座に移管することができますが、期間内に売却してしまいたい場合は、2~3年前から値動きをチェックし値動きが有利な時に売却しましょう。非課税期間ぎりぎりになって急いで売却するとなると、不利なタイミングで売却することになってしまうかもしれません。

課税口座に移管する時はその時点の時価が評価額になる

 非課税期間に売却せず、課税口座に移すというのも悪い方法ではありません。その後も値上がりが続くと予想され、所得税の課税を加味しても有利だと判断される場合は課税口座に移管し、タイミングをみて売却しましょう。ただし、課税口座に移管する際は、移管時点の時価が簿価となります。例えば100で購入したファンドが課税口座に移管する時点で120であった場合、120が新たな取得価額となります。そして売却する時点で150となっていた場合は150-120をした、30に課税されます。これは値上がりした例ですが、当初より値下がりしているにもかかわらず課税されるケースも考えられます。例えば100で購入したファンドが課税口座に移管する時点で50までさがり、70まで値が戻った時点で売却したとします。このケースでは購入価額より売却価額の方が安いのですが、課税口座に移管した際に取得価額が50とされているため70-50=20で、20に所得税が課税されてしまいます。

5.おわりに

 前回から2回にわたってNISAについての解説をしました。

 2024年1月には新NISAが始まり、今後ますます口座数と取引金額は増加するものと考えられます。とはいえ、注目されているのは知っていても、まだ躊躇される方も多いと思います。

 前回確認したように、NISA制度は他の投資に比較して少ない知識で始められますが、やはり最低限NISAという制度や投資信託の仕組について知識を付ける必要があります。その意味では、知識を付ける中で不安が払しょくされれば投資に踏み切ればいいでしょうし、不安が残るのであれば無理に投資を行う必要もありません。新NISAでは、上記の通りいつでも始められるようになりましたが、これは不安を拭うのに時間が掛かる方にとって大きなメリットと言えるでしょう。

 一方、投資リスクの低減には、時間を味方につけ、長期間で投資を行うことも重要になります。だからと言って生活資金を無理に投資に回す、といった判断は危険ですので、まずはいくらだったら毎月投資に回せるか、その額で合計1,800万円に達するのはいつになるか、といった、ご自身の実態に合わせた計算から始めてみることをおすすめします。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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