法人と生命保険

1.はじめに

会社を経営していると一度は保険の提案やお話を受けたことがあるかと思います。
法人保険を検討する理由としては法人税の節税のため、万が一のリスクに備えるため、今よりも保険料を削減したいためと様々な目的がありますが、どの目的であってもしっかりと保険について理解した上で加入を検討する必要があります。
今回は、法人が生命保険に加入する場合のメリット・デメリットを説明いたします。

2.法人が生命保険に加入するメリット

生命保険の活用によって、法人が得られるであろうメリットについては、具体的には以下の項目が挙げられます。

メリット
  1. 万一の場合の保障を確保できる
  2. 税負担を軽減しつつ、簿外に資産を構築できる
  3. 効果的な退職金の準備ができる
  4. 円滑な事業承継を行うために有効である
  5. 従業員の福利厚生になる
  6. 決算期直前でも対応できる

 生命保険の本来の役割は、万一の病気や死亡の際の保障にあります。
経営者に万一のことがあった場合に法人にもたらされるリスクは多大です。
売上の減少、借入金や買掛金の返済、社長の死亡退職金など実に様々な理由により潤沢な資金が必要になりますが、借入金等の返済がスムーズに行われ不足した利益の補てんが行えるだけの保障があれば、その後の経営の安定につながります。
 また、生命保険料の全額または一部は経費になるため、利益を圧縮して法人税負担を軽減できるということは広く知られています。
利益が出ている法人の節税対策として、生命保険へ加入した場合、支払われた経費は消えてしまうわけではなく、生命保険会社に積み立てられ、必要なときに法人に現金として戻すことが可能になります。
その現金は法人に戻されるため、役員や従業員の退職金として支給することもできます。
退職金準備に損金性のある生命保険を活用することで、計画的に退職金の積立てを行いながら法人税の負担も抑えることができるとともに、従業員の福利厚生の一環として運用することも可能です。
 最後に、生命保険に加入し1年分の保険料を前払いした場合には、その年払保険料は法人税法の短期前払費用の特例により、向こう1年分の保険料をその支払った事業年度の損金に算入することが可能です。
法人の節税対策は数多くありますが、決算直前では有効に活用できないものが大半です。
しかし、生命保険への加入の場合、手続きに必要な日数は1週間程度、保険種類によっては数日で完結するものもありますので、決算直前であっても、生命保険であれば、簡便な手続きで節税対策を行うと同時に将来のキャッシュを残すことも可能な場合があります。

3.法人が生命保険に加入するデメリット

上記の通り、生命保険はプランニング次第では経営に大きなメリットをもたらしますが、目先の損金性にとらわれ戦略を持たずして加入してしまうと、法人にとって損失となる場合があります。
生命保険については以下のようなリスクがありますので、しっかりと検討する必要があります。

デメリット
  1. 資金繰りが悪化する可能性がある
  2. 解約をするタイミングによっては大きな損失となる場合がある
  3. 保険を使った節税は「課税の繰り延べ」である

 生命保険を契約すると、当然のことながら保険料を支払う必要があります。
新規事業や設備への投資、人員の拡充を行うなどまとまった現金が必要な場合、保険料でのまとまった支出は経営にとって大きな足かせになりますので、その企業の経営計画によっては、法人保険を用いた節税は適さないケースもあります。
 また、保険契約の解約により外部留保をキャッシュに変えられることが法人保険のメリットですが、解約返戻率は解約のタイミングにより大きく異なります。
一般的に、早期での解約は返戻率が低い為注意が必要といえるでしょう。
 なお、上記2で述べた通り、利益を圧縮し節税効果をもたらすと同時に外部留保を構築できることが法人保険のメリットでもあります。
一方、その保険を解約した場合にはそれまで損金算入されて簿外に計上されていた資金が帳簿上に現れ、この解約返戻金は収益となるので法人税の課税対象となります。
つまり、保険を使った節税は、完全なる節税ではなく、あくまでも課税を先送りするものであるということがいえます。
契約中は利益を圧縮できていたとしても解約時に課税されてしまっては、保険による節税のメリットは希薄化してしまいます。
そのため、プランニングの際に必要なのが、出口戦略です。
例えば、社長・役員の退職や大がかりな設備投資など、解約返戻金の収益とキャッシュアウトによる費用を相殺できれば、納税額を少なくできます。
 何年後までにどれだけの資金を積立てたいのか、それまで継続して保険料を支払うことが可能なのかなど、目的を明確にした上でそれに適ったプランニングが必要となるので、導入の際には、慎重な判断が求められます。

4.おわりに

今回は、「法人と生命保険」というテーマで、法人が生命保険に加入する際のメリット・デメリットを検討しました。
保険のお話を受ける際に「保険に入ることで節税が図れる」、「保険に入ることで資金の貯蓄ができる」などのメリットの説明が多いかと思いますが、どういう理由でそのメリットがあるのか、デメリットやリスクは無いのかなど、多面的に検討する必要があります。
 どのくらいの保険料であれば支払い続けることができるのか、解約時点をいつに設定するのかなどを考慮し戦略的に活用することで、事業の永続性を保つための「守り」と「攻め」をどちらもサポートできる優れた仕組みを備えることが可能になります。
 もちろん、生命保険の活用以外にも様々な節税方法がありますので、それぞれの法人のニーズに合った方法を検討し、健全な会社経営のための手段を常に探していくことが必要でしょう。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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