四半期報告制度の廃止と四半期開示の今後

四半期報告制度の廃止と四半期開示の今後

1.はじめに

 2024年4月から始まる事業年度より、金融商品取引法に基づく四半期報告制度が廃止となりました。これまで四半期ごとに監査法人からの四半期レビューを受けた上で四半期報告書を公表していた上場会社等では対応が進んでいると思いますが、多くの会社が新制度で初めての四半期決算を迎える前に今回の制度について改めて整理しておきたいと思います。

2.企業開示の種類

 企業開示には様々な種類がありますが、大きく分類すると以下の4つに分けることができます。

①会社法に基づく開示

 主に会社債権者や株主保護を目的とした開示です。全ての会社が対象となっており、計算書類等がこれにあたります。元来、会社債権者と株主は利害が対立する立場ですが、計算書類等の開示により両者の利害調整がなされます。

②金融商品取引法に基づく開示

 金商法に基づく開示は、有価証券の流通を公正・円滑に行い、健全で活発な株式市場を形成することを目的としています。有価証券報告書や四半期報告書がこれにあたります。

 金商法の開示は正確性や情報の網羅性が重視された開示であり、他の開示情報よりも詳細でボリュームも多くなります。そのため開示業務の負担が最も大きいともいえます。

③証券取引所の規則に基づく開示

 上場している証券取引所の規則に基づく開示は投資者保護のため、決算短信や業績予想の修正等、投資家に影響を与える情報を適時に知らせるのが目的であり、適時開示の種類は“決定事実(新株の発行等)”、“発生事実(訴訟の提起等)”、“決算情報”の3種類からなります。

④任意開示

 任意開示は根拠法令がなく、自発的に開示される企業情報です。例えばアニュアルレポート等がこれにあたります。企業によっては、PRのために定量的な情報に加えて定性的な情報の開示を行うことも多いです。今までは有価証券報告書が最もその企業の情報を知るための開示として利用されることが多かったですが、近年任意開示を重視する企業やそれを利用する投資家も増えてきています。

 今回、改正になるのは②の金融商品取引法に基づく開示です。第1四半期、第3四半期については基本的には金融商品取引法に基づく開示が廃止され、③の証券取引所の規則に基づく四半期決算短信に一本化しようというものです。この点について次項で解説します。

3.四半期報告書制度の廃止の背景

 金商法に基づく開示の中でも四半期報告書は適時性を重視した開示であり、決算日から45日以内の開示が求められていました。一方、取引所の規則に基づく四半期決算短信も45日以内に開示としていますが、30日以内に開示することが望ましいとしています。いずれにしても接近した期間の中で2つの開示が要求されています。

 内容については決算短信の注記は少ないものの、類似している情報も多いとの指摘が以前よりありました。これを受けて、両開示の「一本化」が決定しました。ただし、「一本化」されるのは第1四半期及び第3四半期のみとなっているので注意が必要です。

4.四半期決算短信の開示項目

 今回の制度改正で四半期報告書を作成する必要がなくなったため、作成しなければならない注記項目は減少します。その分、四半期決算短信の開示が一部拡充されています。

改正前 改正後
・継続企業の前提に関する注記
・株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記
・会計方針の変更、会計上の見積りの変更、修正再表示に関する注記
・四半期特有の会計処理に関する注記
・継続企業の前提に関する注記
・株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記
・会計方針の変更、会計上の見積りの変更、修正再表示に関する注記
・四半期特有の会計処理に関する注記
セグメント情報等の注記
キャッシュ・フローに関する注記

「セグメント情報等の注記」に関しては、制度改正前より決算短信で開示している企業が多くあり、全体として影響は小さいのではないかと思います。「キャッシュ・フローに関する注記」はキャッシュ・フロー計算書を開示すれば注記義務はなくなります。しかし、第1四半期と第3四半期については、元々キャッシュ・フロー計算書を作成していない会社が大多数かと思います。毎四半期ごとにキャッシュ・フロー計算書を作成する実務の負担が大きい場合は注記を新たに追加することになります。

5.四半期決算短信に対する監査人レビュー

 これまでの四半期報告書制度では、会計監査人によるレビューが要求されていました。今回の改正により、会計監査人によるレビューは任意となりました。ただし、以下の会社は四半期決算短信のレビューが義務になります。

① 直近の有価証券報告書・半期報告書・四半期決算短信(レビューを行う場合)において、無限定適正意見(結論)以外の場合
② 直近の有価証券報告書において、内部統制監査報告書における無限定適正意見以外の場合
③ 直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備がある場合
④ 直近の有価証券報告書・半期報告書が当初の提出期限内に提出されない場合
⑤ 当期の半期報告書の訂正を行う場合であって、訂正後の財務諸表に対してレビュー報告書が添付される場合

 また、任意でレビューを受ける場合について、監査法人のレビュー完了後に開示となると、決算短信の特性である速報性の機能が発揮されない可能性があるため、レビュー完了前に四半期決算短信を開示し、レビュー完了後にレビュー報告書が添付された決算短信を開示する2段階の開示が認められています。齟齬が起きないよう、監査法人側とのスケジュール調整については、入念にしておいた方が良いでしょう。

6.おわりに

 決算実務のスケジュールは非常にタイトであり、苦労している会社も多いです。今回の改正は第1四半期と、第3四半期だけではあるものの、作業工数を削減できる会社も多いのではないかと思います。

 一方で実務上の負担軽減を優先するあまり、安易に開示を簡略化してしまい、日本全体の企業開示の後退や、日本の株式市場の空洞化が進んでしまうのではないかという懸念もあります。そのため、任意開示で企業情報の開示が後退してしまわないように配慮することが求められています。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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