消費税の軽減税率について①

 

1.はじめに

平成28年度税制改正大綱において、平成29年4月1日より、消費税率10%へ引き上げるとともに、軽減税率制度を導入することが掲げられました。
軽減税率制度とは、ある一定の生活必需品等に対して、標準の消費税率よりも低い消費税率を設定する多段階方式のことをいいます。
軽減税率の導入にあたって、「何が軽減税率の対象となるのか」、「事務手続きがどのようになるのか」、すなわち 対象品目と制度の仕組み、事務手続き等を理解する必要があります 
全3回にわたり、軽減税率について概観し、軽減税率の導入が企業に与える影響等についてご説明します。
第1回目の今回は、軽減税率の概要についてです。

2.消費税の軽減税率とは

消費税の軽減税率は、税制抜本改革法第7条に基づく消費税率の引上げに伴う低所得者対策として平成29年4月1日より導入される予定です。
消費税は、経済の動向に左右されず安定した税収源と考えられており、今後消費税の役割を高めていくことが重要な課題となっています。一方で、所得に関わらず一定の税金を課すことから、消費税には逆進性という短所もあり、 低所得者層への配慮の観点 から軽減税率の検討が進められてきました。
軽減税率制度の 対象品目 は以下のとおりで、適用税率は8%の予定です。

対象 備考
飲食料品の譲渡 ・食品表示法に規定されている食品。
・酒税法に規定する酒類及び外食サービスを除く。
・一体商品は、一定金額以下の少額のもので、飲食料品が主たる要素を占めている場合に限り対象。
新聞の譲渡 ・定期購読契約が締結された週2回以上発行されるもの。

外食サービスや一体商品(飲食料品と飲食料品以外の資産が一体となっている資産)の対象判定の基準については様々な議論がされており、現段階では政府内での検討中の項目となっているため、今後確認していく必要があります。
また、今後導入することが検討されている軽減税率について、制度上のメリット・デメリットについて次のような議論がなされています。

メリット デメリット
・低所得者層に対する増税の影響を軽減する
(消費税の逆進性への対応策)
・消費者が消費税の軽減を実感できる
・税率を商品ごとに設定することができる
・企業の事務負担の増大
・低所得者対策にならない
・外食産業にとって打撃
・品目の線引きが曖昧
・軽減税率導入による税収の減益

軽減税率は政府が消費税率を品目ごとに定めることができるため、経済の動向や国内産業の実態に即した制度設計が可能となり、臨機応変に対応することのできる制度であると考えられます。
一方で、対象品目の線引きについては、低所得者対策に必要な生活必需品を明確に選定していくことには限界があり、制度の本来の趣旨との整合性がとれないとの懸念があります。
企業の事務負担の増大については次章よりご説明します。

3.インボイス制度の導入

軽減税率の導入に伴い、事業者の事務手続きが大きく変わります。
現行の消費税は税率が一律であったため、課税か非課税かの判定のみ領収書等に反映すればよかったのですが、導入後は各品目に係る消費税率が8%なのか10%なのかを領収書等で明らかにしていく必要があります。
そのため、平成33年4月1日から「 適格請求書等保存方式(インボイス制度) 」が導入されることが、税制改正大綱において明示されました。
導入にあたっては、事業者の準備を要するため、一定期間(平成29年4月1日から平成33年3月31日)は経過措置として「区分記載請求書等保存方式」が導入され、また、複数の税率に対応した区分経理が困難な中小企業者やシステム整備が間に合わない事業者等への対応策として「税額計算の特例」が設けられることも併せて明示されています。
インボイス制度とは、仕入側の課税事業者が、売上側の課税事業者が発行するインボイスに記載された消費税額のみを控除することができる仕組みをいいます。
導入に伴い、以下の主な事務負担が発生すると考えられます。

  1. 売上側の課税事業者は、税額や事業者識別番号等を記載したインボイスの交付・保存をする必要が生じる。
  2. 仕入れの度に、課税事業者のインボイスと免税事業者の請求書等の仕分け作業を行う必要が生じる。
  3. インボイスの保存は、交付側・受取側の双方で必要となる。

したがってインボイス制度を導入するためには、異なる2つの税率に対応する経理・管理方法や店舗におけるレジ・POSをはじめとした様々な システムの変更が必要 となります。
店舗、経理部、営業部、管理部、そして情報システム部と企業内の多岐にわたり対応を図ることが不可欠であり、全社的な取り組みが必要です。

4.おわりに

今回は、消費税の軽減税率についての概要を説明するとともに、軽減税率の導入に伴い採用されるインボイス制度について説明しました。
軽減税率導入により、企業側の事務負担の増大が懸念されています。
実務においてどのような留意点があるか、それに対して各部署でどのような対応を図るべきか、次回以降で検討していきたいと思います。
次回は「軽減税率導入による実務への影響」について検討します。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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