1.はじめに
平成28年12月8日に、平成29年度税制改正大綱が与党から公表されました。今回のレポートも税制改正大綱の中から検討したいと思います。
現在、日本における企業のうち99%以上が中小企業に該当し、日本全体の雇用の7割を占めていると言われています。本大綱でも 中小企業を税制面から支援 する項目が多くあり、中小企業の活動を活性化させることで日本経済の好循環を図ることを目的としています。
前回のレポートではトピック性の高い項目について検討しましたが、今回のレポートでは中小企業に着目し検討いたします。
2.中小法人等、中小企業者等とは
7割が赤字と言われている零細中小企業の負担を軽減することを目的とし、中小企業には税務上の優遇措置が認められています。しかし、中小企業に係る優遇措置を検討する際に、この中小企業を 法人税法上の「中小法人等」 と 租税特別措置法上の「中小企業者等」 に分けて考える必要があります。 それぞれで適用できる優遇措置が異なる ためです。
(1)中小法人等
中小法人等 | ①資本又は出資を有する法人のうち、以下の要件をすべて満たすもの |
---|---|
・資本金の額または出資金の額が1億円以下 | |
・大法人による完全支配がない | |
・100%グループ内の複数の大法人に発行済株式数の全部を直接または間接に保有されていない | |
②公益法人等または協同組合等 | |
③人格のない社団等 |
※大法人:資本金の額または出資金の額が5億円以上である法人
(2)中小企業者等
中小企業者等 | ①資本又は出資を有する法人のうち、以下の要件をすべて満たすもの |
---|---|
・資本金の額または出資金の額が1億円以下 | |
・発行済株式数の1/2以上が同一の大規模法人に所有されていない | |
・発行済株式数の2/3以上が複数の大規模法人に所有されていない |
※大規模法人:資本金が1億円を超える法人または資本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人を超える法人
(3)適用できる優遇措置の種類
中小法人等 | 中小企業者等 |
---|---|
法人税率の軽減措置 | 少額減価償却資産の損金算入 |
交際費等の損金不算入制度の特例 | 試験研究費の税額控除の特例 |
貸倒引当金の適用 | 雇用促進税制の適用 |
留保金課税の適用除外 | 所得拡大促進税制の適用 |
繰越欠損金控除の特例 | 中小企業投資促進税制 |
欠損金の繰戻還付制度 | 生産性向上設備投資促進税制の特例 |
上記の通り、それぞれで適用できる優遇措置が異なるため、自社がどの区分に該当するのかを把握する必要があります。適用できると思っていた制度が実際には適用できなかった等の場合には税負担が大きくなる可能性がありますので注意してください。
なお、上記の優遇措置の中から、平成29年度税制改正大綱で掲げられている項目のうち重要なものについて以下で検討します。
3.中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制について
(1)中小企業投資促進税制の改正等
平成29年度税制改正大綱により、中小企業投資促進税制が見直されています。これにより、対象資産から 「器具備品」が対象外 になるとともに、 適用期間が2年間延長 されることが検討されています。また、中小企業投資促進税制の拡充措置として、新しく 「中小企業経営強化税制」 が創設されます。
(2)中小企業経営強化税制の創設
上記の通り、中小企業投資促進税制の拡充措置として「中小企業経営強化税制」が創設されます。この制度の創設により、中小企業投資促進税制よりも高い率での税額控除、大きな金額での特別償却が認められることに加え、中小企業投資促進税制で対象外になった器具備品についても優遇措置が適用できるようになります。
一方、税負担が優遇される制度であるため、 一定の要件を満たすことや手続き等が必要 になります。税額控除、特別償却が認められる資産を取得したにもかかわらず、手続きが漏れていた等で優遇措置が適用できなかったということがないよう注意が必要です。
【要件等】
・青色申告書を提出する中小企業者等であること |
・中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けること |
・資産の取得が平成29年4月1日~平成31年3月31日までの期間内であること |
・生産等設備で、資産の取得価額が一定額以上であること |
・取得した資産を、国内における指定事業の用に供すること |
【控除額等】
中小企業投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 | ||||
---|---|---|---|---|---|
特別 償却 |
基準取得価額の30% | 特別 償却 |
取得価額の100% | ||
税額 控除 |
中小企業者等 | 特定中小企業者等 | 税額 控除 |
中小企業者等 | 特定中小企業者等 |
適用無し | 基準取得価額 ×7% |
取得価額 ×7% |
取得価額 ×10% |
※特別償却と税額控除については、法人ごとに 選択適用 となる。
※税額控除の上限額は、その適用事業年度の 法人税額の20% を上限とする。なお、法人税額の20%を超えた控除限度超過額については、 1年間に限り繰越が可能 。
4.中小企業に対する特例措置の適用除外
上記の通り、中小法人には多くの優遇措置が認められていますが、平成29年税制改正大綱では、一定規模以上の中小法人に対して制限を入れることが検討されています。
具体的には、平成31年4月1日以後に開始する事業年度から、その事業年度の前3事業年度の所得金額の平均(平均所得金額)が 「年15億円」 を超える事業年度について以下の優遇措置が適用できなくなります。
・中小法人等の法人税軽減税率の特例 |
・中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入の特例 |
・交際費等の損金不算入制度における定額控除の特例 |
・中小企業投資促進税制等の特別償却、税額控除 |
・所得拡大促進税制における税額控除限度額の特例、給与等支給額の増加要件の特例 |
・研究開発税制における総額型の税額控除率の特例 |
この改正については、大企業と同等の規模がありながらも、資本金等をコントロールすることで中小法人に該当させ優遇措置を適用している法人を制限することを目的としています。基準とされている「3年間の平均課税所得が15億円を超える法人」は、中小法人全体の0.1%程度しかないため影響がある法人は少ないように感じますが、本改正が適用された場合には税負担が増えるため確認しておく必要があります。
なお、上記の適用除外とされている項目については確定したものではなく、今後の検討で増減する可能性があります。
5.おわりに
今回は、前回に引き続き平成29年度税制改正大綱の中から、中小企業に係る項目について述べさせていただきました。
過年度の税制改正大綱と同様に、平成29年度税制改正大綱も 中小企業の活性化 を目的とした改正が検討されています。日本においては99%以上が中小企業に該当し、また、地方においては中小企業の存在意義は高いものであるため、これらの企業が活性化することで日本経済が好循環する可能性が見込めるかと思います。
現状は時限的な特別措置が多いため適用期間を確認し、適用要件を満たしているのに優遇措置を適用しなかったということが無いように注意が必要です。