所得拡大税制について

1.はじめに

前回は、有期契約労働者または無期契約労働者に一定の取組みを行った場合に助成を受けることができる「処遇改善コース」についてご紹介させていただきました。今回は、平成29年度税制改正大綱において所得拡大促進税制の改正が検討されましたので、改正点や注意しておきたい点などをご紹介していきます。

2.所得拡大税制とは

青色申告者である法人及び個人事業主が使用人に対する給与等の支給額を一定額以上増加させた場合に増加額の10%を法人税及び所得税の税額から控除する制度です。
 今回の改正で、適用要件の見直しと現行の税額控除制度の上乗せが措置されることとなりました。適用要件の見直しは、中小企業者等以外の法人は平均給与等支給額が前年度比2%以上増えていることが条件となり厳しくなりました。税額控除の上乗せは、前事業年度の給与等支給額からその年度の雇用者給与等支給額が増加している場合は、最大で12%の税額控除ができるようになりました。
 企業収益の拡大が雇用の増加や賃金上昇につながり、それが消費や投資の増加さらに景気の好循環化につながるよう、より高い賃上げの促進や高い賃上げを行う企業へ支援を強化するために見直しが行われました。

3.適用するための3つの前提条件

要件1
適用事業年度の給与等支給額の総額が 基準年度の給与等支給額の総額 より3~5%増加していること

年度による基準の増加割合は以下の表の通りです。

適 用 年 度 増加割合
平成27年4月1日前に開始する適用年度 2%以上
平成27年4月1日から平成28年3月31までの間に開始する適用年度 3%以上
平成28年4月1日から平成29年3月31までの間に開始する適用年度※1 3%以上
平成29年4月1日から平成30年3月31までの間に開始する適用年度※2 3%以上

※1 中小企業者等以外は4%
※2 中小企業者等以外は5%

要件2
適用事業年度の給与等が 前年度の給与等支給額の総額 より増加していること

 給与等支給額は、国内雇用者(役員等を除く)に対する給与等のことです。
給与等とは、給与及び賞与等の支給額です。国内雇用者は、パート、アルバイト、日雇労働者、嘱託社員など非正規社員や雇用保険の被保険者にならない者の賃金、給与、賞与等も含まれます。

 賃金台帳は雇用している全労働者分を作成することになります。下記の記入事項が全て記入されているものであればフォーマットは特に決まっておりません。
・氏名
・性別
・賃金計算期間
・労働日数
・労働時間数
・時間外労働、手当、休日労働、深夜労働の時間数
・基本給、手当、その他賃金の種類ごとにその額
・その他控除額

給与等支給額を計算するにあたり、控除する必要のある助成金の一例です。

・雇用調整助成金
・地域雇用助成金
・トライアル雇用助成金

これらの助成金をうけている場合は、給与等支給額から控除後の金額で判断することになります。この他にも該当する助成金はあります。

要件3
適用事業年度の平均給与支給額が 前年度の平均給与等支給額 より増加していること(改正により、中小企業者等以外の法人は2%以上増加していること)

 平均給与支給額とは、適用年度の国内雇用者に対する給与等の支給額を、継続雇用者の月ごとの延べ人数の合計で割った金額を言います。『継続雇用者』とは、適用年度及びその前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者のことです。
適用年度に新しく入社した方や前事業年度中に退職された方は原則として継続雇用者には含まれません。

4.雇用促進税制との関係

平成28年4月1日以後に開始する事業年度より 雇用促進税制 と所得拡大税制の重複適用が認められることになりました。同意雇用促進開発地域内にある法人においては、両制度の適用要件を満たした場合に両制度を併用するのか、それとも所得拡大税制のみを適用するのかの有利判定を行う必要が生じます。
 雇用者を増加させたことで、人件費が増える場合においては、通常であれば増加人員数1人あたり40万円税額控除を受けることができる雇用促進税制を併用することが有利になるケースが多いとも考えられます。
 一方、同じく雇用者を増加させた場合であっても即戦力採用によって年収が高い人を増加させた場合には、雇用促進税制を併用せず、所得拡大税制のみを適用する方が有利になることも考えられます。
 ただし、雇用促進税制は同意雇用促進開発地域内にある法人においてのみ適用できることとなり、一部の都市においては適用することができなくなりました。労働人口の多い都市部では人数を増加させるだけでなく賃上げをしっかりと行わないと優遇措置は受けられないこととなりました。

5.おわりに

今回は所得拡大税制について述べさせていただきました。所得拡大税制は、企業の賃上げを促進する目的で創設されました。積極的に賃上げを行っていく企業に対してはインセンティブ機能を強化し、より多くの企業の賃上げを促進する制度となります。このような流れはしばらく続いていくものと思われますので、自社の状況や制度をしっかり把握し計画を立てていくことが必要といえるでしょう。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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