1.はじめに
現在日本の企業の99%以上を占める中小企業においては、従業員の高齢化や人手不足等の問題が生じています。政府はこのような状況において効果的に付加価値を生み出せるよう生産性の向上を支援するため、「 中小企業等経営強化法 」を施行しました。これにより、中小企業等は 税制面 および金融面において 一定の優遇 を受けられることとなりました。
今回は、中小企業等が受けることのできる税制措置についてご紹介させていただきます。
2.税制措置
(1) 固定資産税の減税
中小事業者等が平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に一定の設備を新規取得した場合、その設備に係る 固定資産税が3年間にわたって2分の1に軽減 されます。我が国における固定資産税の減税措置は初めてのことであり、これにより法人税などの税額控除等の制度で恩恵を受けることのない 赤字企業においても、税制面での優遇を受けることが可能 となりました。
① 対象となる法人等
当該税制措置の対象となる法人等は「 中小事業者等 」と定められています。中小事業者等とは以下に掲げるいずれかに該当するものをいいます。
資本金もしくは出資金の額が 1億円 以下の法人 |
資本金もしくは出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が 1,000人以下 の法人 |
常時使用する従業員数が1,000人以下の個人 |
なお、以上に該当する場合でも、次に掲げる法人は中小事業者等に該当しません。
一の大規模法人(※)から 1/2 以上の出資を受ける法人 |
二以上の大規模法人(※)から 2/3 以上の出資を受ける法人 |
(※)大規模法人:資本金もしくは出資金の額が1億円超の法人または資本金もしくは出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人超の法人
② 対象となる設備等
設備の種類、用途、価額、販売開始時期について要件があり、これらの要件を満たす設備のうち、生産性(生産効率、エネルギー効率、精度など)が旧モデル比で 年平均1%以上向上 している設備が対象となります。
なお、取得設備は必ずしも最新モデルである必要はありませんが、中古取得等は認められません。
また、販売開始期間、及び生産性の年平均1%以上の向上を証明するために、工業会等から「 工業会証明書 」の発行を受ける必要があります。
設備の種類 | 用途または細目 | 1単位当たりの取得価額 | 販売開始時期 |
---|---|---|---|
機械装置 | 全て | 160万円以上 | 10年以内 |
工具 | 測定工具及び検査工具 | 30万円以上 | 5年以内 |
器具備品 | 全て | 30万円以上 | 6年以内 |
建物付属設備 | 全て | 60万円以上 | 14年以内 |
③ 対象地域・対象業種
取得した設備の設置地域、及び業種により適用できるか否かが以下のように変わります。設置を検討する地域が適用の対象となるかを事前に確認しておくことが大切です。
機械装置 | 全国・全業種において適用あり | ||
---|---|---|---|
上記以外 | 下記以外の40道県 | 全業種において適用あり | |
7都府県(※1) | 対象業種(※2) | 適用あり | |
上記以外 | 適用なし |
(※1)埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府
(※2)地域ごとに対象となる業種が定められています。対象業種は中小企業庁のホームページで確認することができます。
④ 適用を受けるための手続き
この税制の適用を受けるためには、以下のように定められた手順で設備を取得する必要があります。正しい手順で行われなかった場合、優遇を受けることのできる期間が短縮されるため注意が必要です。
① 取得を検討している設備について 工業会証明書を取得 する |
② 経営力向上計画を担当省庁に 申請し、認定 を受ける(申請から通常30日程度で認可) |
③ 設備を取得 する |
例外として、取得をしてから計画の認可を受ける手順もあります。その場合には取得をした年中に認可を受ける必要があるなど、適用までのスケジュールが制限されるため注意が必要です。
(2) 中小企業経営強化税制
青色申告書を提出する中小企業者等が平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に一定の設備を新規取得等したのち、指定事業の用に供した場合、法人税または所得税の申告の際に、 税額が減額される 一定の計算が認められます。
① 対象となる法人等
当該税制措置の対象となる法人等は「 中小企業者等 」と定められています。中小企業者等には、上記(1)①に定める法人等に加え、協同組合等(出資金1億円以下または出資金を有しない場合には常時使用する従業員が1,000人以下のもので、大規模法人の支配を受けないものに限ります。)が該当します。
② 対象となる設備等
対象となる設備は(ア)A型類と(イ)B型類の二種類に分かれ、それぞれ要件や生産性等の向上を確認する機関などが異なります。
(ア) A型類―生産性向上設備―
上記(1)固定資産税の減税と同様、生産性を 年平均1%以上向上 させる設備等が対象となり、販売開始期間、及び生産性の年平均1%以上の向上を証明するため工業会等から 工業会証明書 の発行を受ける必要があります。
設備の種類 | 用途または細目 | 1単位当たりの取得価額 | 販売開始時期 |
---|---|---|---|
機械装置 | 全て | 160万円以上 | 10年以内 |
工具 | 測定工具及び検査工具 | 30万円以上 | 5年以内 |
器具備品 | 全て | 30万円以上 | 6年以内 |
建物付属設備 | 全て | 60万円以上 | 14年以内 |
ソフトウェア | 設備の稼働状況等に係る情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの | 70万円以上 | 5年以内 |
(イ) B型類―収益力強化設備―
B類型においては、設備の導入による利益率の変動に着目し、認可を受けることとなります。
以下の表のうち、経済産業大臣から投資利益率が 年平均5%以上 となることが見込まれると確認を受けたものが対象となります。確認を受けるためには事前に投資計画について 公認会計士等の確認 を受けたのち、 経済産業局に確認書の発行を依頼 します。
設備の種類 | 用途または細目 | 1単位当たりの取得価額 |
---|---|---|
機械装置 | 全て | 160万円以上 |
工具 | 全て | 30万円以上 |
器具備品 | 全て | 30万円以上 |
建物付属設備 | 全て | 60万円以上 |
ソフトウェア | 全て | 70万円以上 |
③ 対象となる業種
この税制の対象となる業種は、卸売・小売業、飲食サービス業、医療、福祉業など多岐にわたります。適用を受けようとする際には 自社の業種が対象業種に該当するか否かを確認 することが大切です。
④ 適用を受けるための手続き
この税制についても(1)固定資産税の減税と同様、定められた手順に従って設備を取得、運用する必要があります。適用を受けるための手順は以下の通りです。
① 取得を検討している設備について 工業会証明書 または 経産局確認書を取得 する |
② 経営力向上計画を担当省庁に 申請し、認定 を受ける(申請から通常30日程度で認可) |
③ 設備を取得し、 事業の用に供する |
⑤ 税額の計算方法
法人税もしくは所得税の計算上、(ア) 即時償却 または(イ) 税額控除 のいずれかを適用することができます。
(ア) 即時償却
取得した設備の取得価額の全額を、取得した事業年度の損金の額に算入することができます。なお、翌事業年度以降に関しては減価償却費の計上ができないこととなるため、課税の繰延べに過ぎず、耐用年数の期間で考えた場合には納める税額はこの税制を適用しなかった場合と変わらないこととなります。
(イ) 税額控除
取得した設備の 取得価額の7% (資本金の額が3,000万円以下の法人については10%)を、法人税額または所得税額から 直接控除 することができます。ただし、その事業年度の法人税額または所得税額の20%が上限となります。なお、控除税額が上限を超える場合には、その超えた部分の金額は翌事業年度に繰り越して控除することができます。
ただし、算定した税額から直接控除をするため、その事業年度の損益が純損失である場合には法人税または所得税が課されないため、控除することができません。
なお、(ア)即時償却とは異なり、法人税または所得税が発生した事業年度においてこの税制を適用した場合には、適用しなかった場合に比べ税額は減額することとなります。
3.おわりに
今回は中小企業等経営強化法に基づく税制措置について述べさせていただきました。この制度には今回ご紹介した以外にも細かな規定や要件等がありますので、活用をする際には事前の準備や要件などの確認、綿密な計画が重要となります。
税金に関する法律は、時代の変化に合わせて改正されていきます。助成制度や法律の改正に対して広くアンテナを張り、常に有利な制度を活用していくことが必要といえるでしょう。