1.はじめに
中小企業は様々なリスクを負っています。その企業の財政が健全であっても、得意先の財政状態によっては 貸倒れなどのリスク を視野に入れておかなければなりません。得意先の財政状態を明確に把握することは難しく、債権者である企業の側でそのリスクをゼロにすることも難しいといえるでしょう。
得意先の倒産等による貸倒れのリスクに備えるための保険や共済制度が存在します。これらの制度を適切に活用すれば、債権を回収できないというリスクをゼロに近づけることは可能です。今回はそのような制度のうち、 「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」 についてご紹介いたします。
2.経営セーフティ共済とは
経営セーフティ共済は、得意先の倒産の影響を受けて中小企業が連鎖して倒産することを防止するため、加入者の拠出した掛金から 共済金の貸付けを行う制度 です。掛金は一月あたり5,000円から設定することができ、得意先の倒産時には掛金総額の10倍の範囲内で融資を受けることができます。
この共済制度は「中小企業倒産防止共済法」という法律のもと、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」といいます。)により運営されています。
(1) 対象となる事業者
この制度は「引き続き一年以上事業を行っている中小企業者」を対象としており、業種ごとに適用の要件が定められています。この中には個人事業者も含まれ、法人と同様に共済に加入することができます。
業種別の要件は以下の通りで、資本金または出資金額要件、もしくは従業員数要件のいずれか(個人の場合は従業員数要件)に該当する事業者が加入することができます。
業種 | 資本金または出資金額 | 常時雇用する従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業、その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業(※) | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
※自動車または航空機用タイヤおよびチューブ製造業ならびに工業用ベルト製造業を除く
なお、事業組合や商工組合など、一定の組合も加入することが可能です。
ただし、上記の要件を満たしていても加入できない事業者が設定されており、下記のような状況にある事業者に関しては加入がでないため、加入の前に自社の状況を確認することが大切です。
住所や事業内容の変更を繰り返し行ったため、継続的な取引の状況の把握が困難である場合 |
事業に係る経理内容が不明である場合 |
すでに貸付を受けた共済金等について返還を怠っている場合 |
中小機構から返還請求を受けた共済金等の返還を怠っている場合 |
納付すべき所得税または法人税を滞納している場合 |
加入者の過失や不正により、共済契約を解除された日から1年を経過していない場合 |
不正に共済金等の支給を受け、または受けようとした日から1年を経過していない場合 |
現に加入している場合 |
なお、以下では、主に法人が加入するケースを想定します。
(2) 掛金
①月額掛金の設定
共済の掛金は 月5,000円から20万円まで の範囲内で、5,000円単位で自由に設定することができます。この掛金の設定は加入後に増額または減額が可能ですが、減額は事業規模を縮小した場合などの一定の要件を満たした場合に限られるため、増額をする際には資金繰りの状況が長期的に見て悪化しないかなどの検討が重要となります。なお、掛金の納付が遅れると年14.6%の後納割増金が発生することになり、掛金を12か月分以上滞納した場合には中小機構から共済契約を解除されることとなります(以下、「機構解約」といいます。)。
この掛金は掛金総額が 800万円に達するまで積み立てが可能 です。また、掛金総額が800万円に達していなくても一月当たりの掛金の額の40倍相当額に達した場合には、加入したまま掛金の支払いを止めることができます。
②掛金の前納
掛金総額と前納掛金の合計額が800万円を超えない額を限度として、 掛金を前納することが可能 です。前納した部分については充当される月が到来して初めて掛金として取り扱われ、充当する月の到来していない部分については共済金の貸付額の算定基礎には含まれません。
なお、前納をする際には「掛金前納申出書」を提出し、前納を希望する月の 5日までに中小機構の受理を受ける 必要があります。仮に前納を希望する月の5日までに受理が間に合わなかった場合は、前納掛金を支出する時期が翌月となります。この前納の手続きは前納を希望する都度申請が必要であり、一度前納制度を利用した場合であっても、その前納掛金の充当が完了した月の翌月からの掛金については改めて申出をしなければ 自動的に毎月納付に切り替わります 。
(3) 融資
以下の要件に該当する場合には、 回収が困難となった債権額 と、 掛金総額の10倍相当額のうちいずれか低い額を限度として融資を受ける ことができます。ただし、前述のとおり充当する月の到来していない前納掛金は、この「掛金総額」には含まれないため、注意が必要です。
加入後6か月以上を経過し、かつ6か月分以上の掛金を納付していること |
直接の取引先が倒産したこと |
取引先の倒産により売掛金債権等の回収が困難となったこと |
取引先の倒産日から6か月以内に共済金の貸付請求をしていること |
当該融資に係る償還期間は融資を受けた金額によって異なりますが、どのケースにおいても6か月間据置いたのち、残りの期間で均等償還をするとなります。なお、償還期日までに償還しなかった場合には、年14.6%の違約金が発生します。
貸付額 | 償還期間(6か月の据置期間を含む) | 償還方法 |
---|---|---|
5,000万円未満 | 5年 | 54回均等分割償還 |
5,000万円以上6,500万円未満 | 6年 | 66回均等分割償還 |
6,500万円以上8,000万円以下 | 7年 | 78回均等分割償還 |
(4)解約
この共済契約は、共済契約者が任意に解約(以下、「任意解約」といいます。)することができ、12か月分以上の掛金を納付している場合には、それまで納付した掛金の一部または全部を「 解約手当金 」として受けることができます。また、契約した法人が解散等した場合なども解約とみなされます(以下、「みなし解約」といいます。)。なお、機構解約を受けた場合でも解約手当金を受け取ることができますが、その際受けることができる金額は最大で掛金総額の95%となります。
掛金の納付期間によって受け取ることのできる金額は以下の通りです。
掛金納付月数 | 解約手当金の額(掛金総額に対する割合) | ||
---|---|---|---|
任意解約 | 機構解約 | みなし解約 | |
1か月~11か月 | 0% | 0% | 0% |
12か月~23か月 | 80% | 75% | 85% |
24か月~29か月 | 85% | 80% | 90% |
30か月~35か月 | 90% | 85% | 95% |
36か月~39か月 | 95% | 90% | 100% |
40か月以上 | 100% | 95% | 100% |
上記の通り、任意解約をする場合には40か月以上の納付をしていなければ掛金の一部が戻ってこないこととなるので、解約を見込んで加入する際には注意が必要です。
3.税法上の取り扱い
(1) 掛金および前納掛金の取扱い
この共済制度に係る掛金は、その全額を法人税法上の 損金の額に算入することが可能 であり、加入時における利益を適切に処分することができます。そのため、課税を繰延べる手段としてこの制度を活用することができます。
前納掛金については、12か月分の前納掛金に限り、支出した日の属する事業年度の損金への算入が認められています。そのため、事業年度の後期になって利益が多額になることが判明した場合には、決算月の5日までに前納の手続きを完了していれば、向こう1年分の掛金を支出した事業年度の損金の額に算入することにより、その事業年度の納税額を減額することが可能です。ただし、決算月の5日までに前納の申請が受理されなかった場合にはその事業年度中に前納掛金を支出することができません。したがって税金面での効果を期待して加入を検討する際には、遅くとも決算月の前月までには最終的な利益の額を試算しておくことが理想であるといえるでしょう。
なお、前納掛金のうち12か月を越える部分については、各事業年度末において期間の経過に応じて損金の額に算入することができます。
(2)解約手当金の取扱い
解約手当金については、解約した事業年度の 益金の額に算入される ため、その事業年度の税額はその分だけ大きくなります。加入事業年度から解約事業年度までの期間で考えた場合には納めるべき税額は加入しなかった場合と変わらないこととなり、節税というよりは課税の繰延べであるという意識を持っておくべきでしょう。例外として、解約した事業年度が損失となることが見込まれる場合には益金の額に算入される金額をその損失の額の分だけ相殺することができます。
4.おわりに
今回は取引先の倒産時に融資を受けることのできる経営セーフティ共済についてご紹介させて頂きました。
取引先倒産時の融資や税金面での効果など、共済制度への加入によるメリットを中心にご説明いたしましたが、その反面、 長期的なキャッシュアウトを伴う 点や貸付を受けた場合にはその返還と月々の掛金でキャッシュの流出が大きくなる点、解約のタイミングによっては多額の税金が課せられる点など、経営上障害となりかねない要素もあることを忘れてはなりません。また、この経営セーフティ共済には今回ご紹介した以外にも細かな規定や要件等があり、加入の際には各要件・規定の確認や、長期的な資金繰りを見据えた計画など、事前の準備が重要となります。
制度に対する正しい理解を得たうえで適切に制度を活用していくことが、健全な会社経営のための鍵となるといえるでしょう。