1.はじめに
我が国の年金制度は一般的に「3階建て」と言われています。1階層目が「国民年金」、2階層目が「厚生年金」、3階層目が公務員独自の「年金払い退職給付」、会社独自の「 企業年金 」とに分かれており、業種や加入期間により、受給できる額が異なります。とりわけ3階層目の「企業年金」に関しては受給額が多くなるものの、実際に受給を受ける人はそう多くはありません。国は企業年金制度が多くの企業に導入しやすいものとなるよう、時代の変化に合わせて改定しています。
今回は現行の企業年金についてご紹介いたします。
2.日本の年金制度について
企業年金について触れる前に、我が国の年金制度についてもう少し詳しく取り上げます。
前述の通り、年金制度は以下の3つに分かれています。
3階部分 | 年払い退職給付 | 企業年金 |
公務員であれば例外なく加算される。 | 会社が何らかの企業年金制度を導入しているとき、例外なく加入することとなる。 | |
2階部分 | 厚生年金 | |
加入期間の所得に応じて受取額が変わる。会社員や公務員が加入することとなる。 | ||
1階部分 | 国民年金 | |
受給額はある程度固定されている。20歳以上の人は原則としてすべて加入することとなる。 |
受給対象者となった際は、 加入していた部分からの給付のみ を受けることとなります。したがって、基本的には国民年金にのみ加入する自営業などの方よりも、企業に勤めていた方などの方が厚生年金の分、多く年金を受給することとなります。また公務員や、企業年金制度を導入している企業に勤めていた方は3階部分の企業年金についても受給することとなるため、受給額はさらに大きくなります。そのため企業年金制度は、少なからず労働者の関心事となっています。
受給権の保護が十分にされなかったり、原資を拠出する企業の負担が大きくなったりといったそれまでの年金制度を変えるべく、新たな企業年金の仕組みが定められました。平成13年には、掛け金を拠出した段階で企業の責任が完結する「 確定拠出年金 」が、翌14年には受給権の保護が厳しく規定された「 確定給付企業年金 」が創設され、各企業において従来の企業年金制度からこれらの制度への移行や、新規加入が進んでいます。
3.現在の企業年金制度
現在、企業年金には「厚生年金基金」(従来からある制度)、「確定拠出年金」、「確定給付企業年金」の3つの制度があります。以下では主に「確定拠出年金」「確定給付企業年金」を中心に、それぞれの特徴について取り上げていきます。
(1)厚生年金基金
厚生年金基金は、企業が厚生労働大臣からの認可を受けて法人を設立し、年金の運用を行っていく制度です。本来2階層目の厚生年金において支給される 報酬比例部分 (在職中の報酬に比例して支給額が決定する部分) をこの厚生年金基金において代行 し、それに加えて 企業独自の年金を上乗せ 支給します。本来であれば報酬比例部分を国に納付する必要が生じますが、厚生年金基金を実施することによりその義務を免除されることとなります。
昭和41年に始まった制度で現在も残ってはいますが、運用環境の悪化によりその継続が難しくなり、代行している報酬比例部分を国に返納する「 代行返上 」をしたうえで確定拠出年金、確定給付企業年金への移行をする企業が増えてきています。さらに、2014年4月以降からの新規設立が認められなくなったため、いずれは廃止となることが想定されます。
(2)確定拠出年金
①概要
確定拠出年金はその名の通り、 拠出額があらかじめ確定している 年金制度です。企業が拠出を行う「企業型」と、個人事業者などが利用する「個人型」とに分かれますが、企業としてこの制度を導入する際は「企業型」に該当していくこととなります。企業の定める規定によっては、従業員が独自に個人型を利用し、企業型と個人型を併用することもできます。制度の発足にあたっては厚生労働大臣の承認を受ける必要があります。
拠出額は確定していますが、 給付額については運用の成果により変動する こととなります。拠出をした時点で企業側の責任は果たされたこととなり、運用は加入者個人が指図をして行うため、加入者個人の 金融商品知識や経済全般の知識が重要 になります。そのため、企業の責任は拠出のみとなりますが、加入する従業員に対する 投資教育は最低限果たすべき努力義務である ということを念頭に入れておくべきでしょう。
加入者は企業から投資教育や制度に関する説明を十分に受けたうえで、投資信託や保険商品などの運用商品を選び、運用指図を行っていきます。給付金は以下の4種類があり、それぞれの条件を満たした際に支給されることとなります。
老齢給付金 | 障害給付金 | 死亡一時金 | 脱退一時金 | |
---|---|---|---|---|
給付期間 | 5年以上の有期 または 終身年金 |
5年以上の有期 または 終身年金 |
要件該当時、 一括で支給 |
要件該当時、 一括で支給 |
要件等 | 原則、60歳に到達した場合 (一部例外あり) |
70歳に到達する前にけがや病気などにより一定以上の障害状態が1年6ヶ月継続した場合 | 加入者が死亡した場合、遺族等が資産座高を受給 | 資産残高、加入期間など、定められた要件を満たす場合 |
拠出額には企業型、個人型のそれぞれにおいて限度があり、現行では以下のように定められています。
企業型 | 確定拠出年金以外の企業年金制度と併用 | 月55,000円
(※1) |
|
確定拠出年金のみ利用 | 月27,500円
(※2) |
||
個人型 | 自営業者、農業者等 | 月68,000円 | |
会社員 | 企業において厚生年金基金または確定給付企業年金の実施がある | 月12,000円 | |
企業において確定拠出企業年金のみ実施がある | 月20,000円 | ||
企業において企業年金制度の実施がない | 月23,000円 | ||
公務員 | 月12,000円 | ||
専業主婦、専業主夫等 | 月23,000円 |
(※1)個人型との併用が可能な場合は、35,000円
(※2)個人型との併用が可能な場合は、15,500円
③主なメリットとデメリット
確定拠出年金の主なメリットとデメリットは以下の通りです。
(メリット)
◎企業において、拠出額を 全額損金に算入 できる
◎従業員において、拠出額が所得税における 所得控除の対象 となる
◎運用が好調であれば受給額の増額に繋がる
◎各加入者が 常に残高を確認 できる
◎拠出額が確定しているため、予測がつきやすく、計画が立てやすい
(デメリット)
◎ 投資リスクを加入者個人が負う (運用が好調でなければ受給額が減る)
◎ 給付額が事前に確定しない
◎原則60歳まで受給ができない
(3)確定給付企業年金
①概要
確定給付企業年金はその名の通り、従業員が受け取る 給付額があらかじめ確定している 企業年金制度です。給付額が確定しているという点において厚生年金基金と似ていますが、報酬比例部分の代行がありません。厚生年金基金の移行先として利用されることが多く、 現在もっとも普及している企業年金制度 です。確定拠出年金とは異なり、その運用は企業側で行われ、運用状況を加入者に対して開示することが求められており、従来の制度に比べ 受給者の権利が厳しく保護 されています。
企業と契約を交わした受託金融機関等が運用・給付を行う「規約型」と、企業が設立した企業年金基金が運用・給付を行う「基金型」とに分かれており、それぞれ手続き等が異なります。なお、どちらの制度においても 企業の外部に年金用の資産を積み立てる ことにより、企業に万が一のことがあっても 受給者の資産が守られる こととなります。
受給金は以下の2種類があります。
老齢給付金 | 脱退一時金 | |
---|---|---|
納付期間 | 5年以上の有期 または 終身年金 |
要件該当時、一括で支給 |
要件等 | 60歳以上65歳以下の規約で定める年齢に達した場合 | 3年以上加入している従業員が、左記老齢給付金の支給要件に該当しないうちに、企業年金制度から脱退した場合 |
規約型の企業年金制度を創設する場合、企業は従業員と制度設立の労使合意を交わし、厚生労働大臣の承認を受け、 生命保険会社、信託銀行または投資顧問会社に年金用の資産の運用・給付を委託 します。受託した金融機関等は企業からの定期的な拠出を受け、それを管理・運用し、必要に応じて企業の従業員に対して支給します。
理事会や代議員会の設置が必要ではない分、企業と労働者との間で定期的に運用状況等を報告することなどを定め、必要に応じて労働者側からの意見を反映できるような体制作りが必要となります。
③基金型
基金型の企業年金制度を創設する場合、企業は従業員と制度設立の労使合意を交わし、厚生労働大臣の承認を受け、企業年金基金として特別法人を設立します。設立した企業年金基金は企業からの定期的な拠出を受け、それを管理・運用し、必要に応じて企業の従業員に対して支給します。現在運用されているのはほとんどが厚生年金基金からの移行であり、ゼロから基金型の確定給付企業年金を創設するケースはほとんどありません。
基金の運営には 理事会・代議員会の設置が必要 であり、その構成員については企業側および労働者側からそれぞれ同数を選出し、労働者側からも意見を述べる機会が増えるよう配慮されています。
④主なメリットとデメリット
確定給付企業年金の主なメリットとデメリットは以下の通りです。
(メリット)
◎企業において、拠出額を 全額損金に算入 できる
◎従業員において、拠出額が所得税における 所得控除の対象 となる
◎受給権が厳重に保護される
◎ 約束された金額の給付 を受けることができる
◎確定拠出年金とは異なり、60歳に満たない場合でも受け取りやすい
(デメリット)
◎企業側で債務認識をする必要があり、貸借対照表に負債として計上される
◎各加入者が 年金資産の残高を確認できない
◎積み立て不足が発生した場合は、 掛金の追加拠出 がある
4.おわりに
今回は年金制度の3階層目の部分である、企業年金についてご紹介させて頂きました。年金制度は多くの労働者の関心事であることを忘れてはなりません。経営者は従業員のニーズに応えることで、少子高齢化が進む日本において優秀な人材を社内にとどめておくことができます。
また、このような制度は時代の変化とともに改変され、その時々に適した運用ができるように調整されていきます。したがって、以前検討した結果導入をあきらめた制度でも、定期的に改正や調整が行われていないかを確認し、その都度検討していくことが重要であるといえるでしょう。