平成30年度税制改正大綱について②

1.はじめに

今回のテーマは、前回に引き続き平成30年度税制改正大綱の中から、法人に係る改正について取り上げていきたいと思います。傾向としては賃上げ・生産性向上のための税制の改組や設立が目立ち、経済の好循環に繋げようという意図が感じられる内容となっております。そこで、賃上げ・生産性の向上という観点から「 所得拡大促進税制の改組 」及び「 情報連携投資等の促進に係る税制の新設 」について紹介して参ります。

2.所得拡大促進税制の改組

⑴所得拡大促進税制とは

所得拡大促進税制とは、従業員に支給する給与等の金額を増額させた場合に、その増加部分の金額のうち一定額をその事業年度の法人税額から控除する制度です。法人が獲得した利益を従業員に還元しやすいようにするための賃上げ制度で、多くの企業が採用しております。制度の適用には一定の要件があり、従来も改正が行われてきた制度ですが、今回の大綱の中でも改正点が示されているため、その改正点について紹介したいと思います。

⑵内容及び25%税額控除の要件

①改組の具体的内容

所得拡大促進税制は、中小企業とそれ以外の企業で内容や要件が異なり、今回の改正においても取り扱いは異なりますが、本レポートにおいては、中小企業における所得拡大促進税制について述べて参ります。大綱では、青色申告書を提出する法人が、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する事業年度において、国内雇用者に対して給与を支給する場合で、従業員1人当たりの前事業年度からの増加額の平均が、従業員1人当たりの前事業年度支給額の平均から1.5%以上増加した場合には給与等支給総額の対前年度増加額の15%の税額控除を受けられ、さらに追加適用として増加割合が2.5%以上場合には、一定の要件を満たした場合に限り25%の税額控除を受けることが出来ると示されています。(ともに法人税額の20%を上限とする)

②一定の要件

前述のとおり、25%の税額控除の適用を受けるためには、増加額の平均が2.5%以上であることの他に、次のいずれかの要件を満たす必要があります。

  • (a)教育訓練費の額の前事業年度からの増加割合が10%以上であること。
  • (b)事業年度終了の日までに中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたもので、その計画に従って経営力向上が確実に行われたものとして証明がされたこと。

(注)教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術または知識を習得させるための費用で、外部講師への謝金や外部施設の使用料、教育訓練に参加するための費用などをいう。

⑶主な改正点

今回の改正での主な変更点をまとめると以下のようになります。

  1. 設立事業年度は適用対象外であること。
  2. 基準事業年度との比較をする必要が無くなり、前事業年度からの増加割合のみを比較対象としていること。
  3. 控除対象額は、当事業年度と基準事業年度の増加額の10%(前期との増加額の12%上乗せあり)であったが、前事業年度からの増加額の15%(若しくは25%)へ変更となったこと。
  4. 当事業年度及び前事業年度のすべての期間において給与の支給がある従業員を比較対象とすること。

従来は設立事業年度からの適用が可能であったため、設立事業年度において法人税額が生じた場合には適用を検討していた制度でしたが、今回の改正からは対象外となっておりますので、設立事業年度がいつなのかを注意する必要があります。
また、基準事業年度(平成24年度)からの増加割合を判定する必要が無くなり、あくまで前事業年度との比較により判定することとなったため、判定そのものは簡素化されました。一方、控除額は前事業年度からの増加額の15%若しくは25%相当額となるため、給与が大幅に増加するような新興企業を除き、控除額が下がる可能性があります。

3.生産性向上のための情報連携投資等の促進に係る税制

⑴情報連携投資等促進税制とは

情報連携投資等(IoT投資)促進税制とは、法人税額を控除することにより、データの連携・活用を目的とするソフトウェアや機械装置などの取得を促進し、生産性の向上に繋げようという制度です。実際にAIを導入することにより、生産ラインを効率化させ、低コストで生産性を高めている例もあり、今回の税制改正大綱の中でも注目すべき制度といえるかもしれません。

⑵同法の具体的内容

適用を受けるためには、前提条件として、青色申告書を提出する事業者が取組内容に関する事業計画というものを作成し、主務大臣(経済産業大臣)の認定を受けなくてはなりません。同法の施行日から平成33年3月31日までの約3年間で、その認定された事業計画に基づいて行う設備投資(投資額の合計が 5,000万円以上 の場合に限る)について特別償却と税額控除のどちらかを選択適用することができます。特別償却は、取得価額の30%を償却することができ、税額控除は取得価額の5%(法人税額の20%を限度)若しくは、一定の要件を満たさない場合は3%(法人税額の15%を限度)の控除を受けることが出来ます。

(注)事業計画について認定を受けるためには、①新たに取得するデータを内部の既存のデータと連携させること(データの連携と利活用)、②専門家の確認が必要なセキュリティ対策がなされていること、③一定期間内に労働生産性の伸び率が2%以上に達する見込みであることなどの条件を満たす必要があります。
(注)5%の税額控除を受けるためには、前事業年度からの1人当たりの平均給与支給額の増加額が、前事業年度の平均給与支給額に対して3%以上であることを要件としています。

4.おわりに

今回は、平成30年度税制改正大綱の中から、所得拡大促進税制及び情報連携投資等の促進税制について紹介いたしました。所得拡大促進税制につきましては、判定要件及び控除額が前年度との比較のみに変わり、構造や集計はシンプルになった反面、控除額や設立事業年度は適用できないなど条件によっては不利となるケースもあり、適用年度を正確に把握することも必要になってきます。
情報連携投資等の促進税制は、設備投資促進税制の一環であるが、対象となる資産はITや情報の連携に付随するものであり、生産性の向上という面を鑑みても、上手く利用することができれば適用件数は増加するでしょう。控除額の要件の中に給与の増加額が取り入れられていることからも、今回の改正は賃上げ・生産性の向上を促進させたいという意図が表れています。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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