1.はじめに
2020年1月に国内で初めて新型コロナ感染症が確認されて以来、国内経済の先行きに対する不透明感が拭えない日々が続いています。新型コロナ関連の倒産は、累計で2348件、2021年だけでも11月上旬時点で1505件が確認されており、今後も増えていくことが見込まれています(https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/pdf/tosan.pdf)。
このような状況下においては貸倒損失や貸倒引当金の計上を要する場面に遭遇する可能性が高まります。そこで、今回から2回にわたり貸倒損失や貸倒引当金計上時の税務上の留意点を解説します。税務上の損金否認リスクが関わる論点ですので、第1回目の今回は貸倒損失について基本的な理解を深めていきたいと思います。
2.貸倒損失の区分
各種債権が諸条件によって税務上の貸倒損失と判断された場合、その額は損金に算入されます。その際の一つのポイントが、一部の例外を除き、債権額の部分的な貸倒は認められず全額が貸倒計上される点です。貸倒損失の判断にあたっては、原則、債務者の支払能力等を個別に判断しますが、本当に貸倒となったのかの事実認定は非常に難しい面があります。
法人税基本通達の定めに従うと、貸倒損失は発生した「一定の事実」により、大きく以下の3つに分類されます。「一定の事実」については細かい定めがありますのでこのあと解説していきますが、まずは大きくこの3分類をおさえてください。
区分 | 貸倒の一定の事実 |
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1. 法律上の貸倒 | 金銭債権の全部または一部が法的手続きにより切り捨てられた場合 |
2. 事実上の貸倒 | 債務者の支払能力等からみて、その金額が回収不能であることが明らかな場合 |
3. 形式上の貸倒 | 売掛債権について債務者との取引停止後、1年以上が経過した場合 |
3.法律上の貸倒
法律上の貸倒となる場合にもさらに4つの区分があります。
- 1-a. 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定
- 1-b. 特別清算の協定の認可決定
- 1-c. 法令の規定による整理手続によらない債権者の協議決定
- 1-d. 債務超過が相当期間継続している場合の書面による免除
1-a.については、会社更生法や民事再生法、金融機関の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画等の認可の決定があった場合に、切り捨てることとなった債権の額が計画認可決定の事実が発生した期に損金算入されます。
1-b.の特別清算とは、清算中の株式会社に清算の遂行に著しい支障をきたす事情がある場合などに、利害関係者の裁判所への申し立てによって開始される特別な清算手続をいいます。
1-c.は、イ)債権者集会の協議決定で、合理的な基準により債権者の負債整理を定めているもの、ロ)行政機関又は金融機関その他第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容がイ)に準ずるもの、と定められています。合理的な基準とは、全ての債権者におおむね同一の条件で借入金額に応じて比例的に切り捨て額が定められるような場合や、利害が相対する第三者同士で総合的に協議・決定されたような場合が該当するとされています。つまり、切り捨て額の決定に恣意性が排除されるような状況が求められます。
1-d.における債務超過の状態は、債務者の実質的な返済能力・財産状態を勘案する必要があるため、債務者の資産・負債は時価ベースで判断されます。また、相当期間とは通達でも定められておらず、個別の案件に応じて判断することになっていますが、通常は過去の判例にならい3年ないし5年程度と解されています。債務者に返済能力があるにもかかわらず債務免除を行うと、貸倒損失とは認められず、寄付金と認定され寄付金の損金算入限度額の計算が必要になる点に注意が必要です。
4.事実上の貸倒
事実上の貸倒とは、債務者の資産状況・支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合をいいます。回収不能であることが明らかになった事業年度に貸倒として損金経理をすることができます。法律上の貸倒とは異なり、「できる」規定であることがポイントです。損金経理をするかどうかは任意であり、会社が損金経理をしない限りは損金算入されません。
また、金銭債権の一部ではなく、全額回収できないことが前提となっている点も注意が必要です。
全額とは、担保物がある場合、金銭債権から担保処分額を差し引いた金額になります。担保物を処分しない場合は貸倒損失を計上することはできず、貸倒引当金で対応することとなります。ただし、担保物が未処分でも、抵当権順位が低く、実質的に全く担保されないような場合には担保物がないものとして取り扱いが可能となります。また担保物の処分費用が多額なうえ、処分しても回収見込み額が少額である場合は、書面による債務免除を行い、貸倒損失として処理が可能になります。
5.形式上の貸倒
形式上の貸倒が認められるのは、金銭債権のうち売掛債権において次の2パターンに当てはまる場合に限ります。1つ目は、継続的な取引先の資産状況、支払能力等が悪化したため、取引を停止して1年が経過した場合、2つ目は同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立てに要する費用に満たず、支払を督促したにもかかわらず弁済がない場合です。いずれも売上債権から備忘価格(通常は1円)を控除した金額を貸倒損失として損金経理することができます。こちらも「できる」規定です。
1つ目のパターンの「取引を停止して1年」とは、1)債務者との取引を停止した日、2)契約上の最後の弁済日、3)最後の実際の弁済日のいずれか遅い日から起算して1年以降を指します。また、継続的な取引を行っていたことが前提ですので、有価証券や不動産などを単発で売買した場合は当てはまりません。
6.おわりに
今回は債権の回収不能リスクに備え、貸倒損失の税務上の留意点について解説しました。
貸倒損失が税務上のトラブルになりやすいのは、「債務者に弁済能力があるか」や「担保物等も総合的に判断して本当に回収不能であるか」といった点を納税者が判断しなければならないためです。基本通達で定められたケースにきっちり当てはまれば問題ありませんが、ケースバイケースで事情が異なり、妥当性の面から判断しなければならない場合が多いのが現実です。当コラムで基本を理解していただいた上で、個々の事例については過去の判例や国税庁の質疑応答事例などを参考にしていただくと良いかと思います。
次回は貸倒引当金にかかる税務上のリスクを解説します。