1.はじめに
長引くコロナ禍によって今後も増え続けると見込まれる中小企業の倒産に関連し、前回は貸倒損失にかかわる税務上の留意点について解説しました。今回は、前回に引き続き債権の回収不能リスクに備えて、「貸倒引当金計上」に関して会計上の考え方と税務上の留意点をご紹介したいと思います。
2.会計上の債権の区分
会計上では債務者の財政状態等によって、債権を3区分に分け、その区分に応じて貸倒引当金を計算することとなっています。
「金融商品に関する会計基準」に基づけば、債権は以下の3つのいずれかに区分されます。
- (1) 一般債権=経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権
- (2) 貸倒懸念債権=経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じている又は生じる可能性の高い債務者に対する債権
- (3) 破産更生債権=経営破綻した又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権
但し、実務上は個々の債務者の財政状態等を一般事業会社が把握することは困難です。そのため、債権の計上月や弁済月からどれだけ経過しているかに応じて債権を区分する、といった簡便的な方法も認められています。多くの会社では、債権管理の一環として売掛金年齢表(エイジングリスト)のようなものを作成されていると思いますが、これが債権区分の根拠資料となります。
3.会計上の貸倒引当金算定方法
(1)の一般債権について、「金融商品に関する会計基準」には「債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する」とあります。同種というのは売掛金や未収入金といった勘定科目ごとに区分することをいい、同類とは同種よりも大きな区分である、営業債権と営業外債権、または短期と長期の期間別といった区分をいいます。
一般債権に対する貸倒引当金を算定するには、一般債権残高に貸倒実績率を乗じます。この算定において重要になる「貸倒実績率」について、「金融商品に関する実務指針」では「債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率」に関して次のように記載があります。
与信管理目的で債務者の財政状態・経営成績等に基づいて債権の信用リスクのランク付け(内部格付)が行われている場合に、当該信用リスクのランクごとに区分して過去の実績から算出した貸倒実績率
実務上は「合理的な基準」として、過去3算定年度にかかる貸倒実績率の平均値とするのが一般的かと思います。また、資本金1億円以下の中小法人等では、後述する税務上認められた法定繰入率で計上することが多いです。
(2)の貸倒懸念債権の定義にある「債務の弁済に重大な問題が生じている」に該当するケースとして次のようなものが挙げられます。
- 弁済がおおむね1年以上にわたって滞っている
- 弁済期間の延長や弁済の一部棚上げを行っている
- 元金又は利息の一部免除など弁済条件の大幅な緩和を行っている
貸倒懸念債権に対する貸倒引当金の算定方法としては以下の2つの方法が認められています。
①財務内容評価法
この方法は債権残高から担保処分見込額や保証による回収見込額を除いた残額について、債務者の財政状態、経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法です。債務者の財政状態は事業の状況、金融機関等の支援状況、再建計画の実現可能性などに関する情報を収集する必要があり、一般事業会社では難しいケースが多いといえます。そこで残額の50%を引き当て、翌年度以降毎期見直すといった簡便法も認められています。
②キャッシュ・フロー見積り法
この方法は元利回収が予定通りに行われないと見込まれるような場合に、回収可能性の判断に基づき入金可能な時期と金額を反映した将来キャッシュ・フローの見積りを行います。または支払状況の緩和が行われるような場合はそれに基づく将来キャッシュ・フローを算定し、債権の発生当初の約定利子率又は取得当初の実効利子率で割り引きます。将来キャッシュ・フローの見積りは毎期必ず見直す必要があります。
(3)の破産更生債権の定義でいう「実質的に経営破綻に陥っている債務者」とは、「金融商品に関する実務指針」において「法的、形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状態にあると認められる債務者である」と補足されています。
算定方法は財務内容評価法によります。担保及び保証の取扱いについては、貸倒懸念債権で記載した財務内容評価法の場合と同様です。清算配当等により回収が可能と認められる場合は担保物の処分見込額と同様の扱いとします。
4.税務上の債権区分
まず前提として、税務上で貸倒引当金の損金算入が認められるのは以下の3つの法人に該当する場合のみです。
- Ⅰ. 資本金1億円以下の中小法人等(大法人との間に完全支配関係があるものを除く)
- Ⅱ. 銀行、保険会社その他これらに準ずる法人
- Ⅲ. リース債権その他金融取引に関する債権を有する法人(リース会社、証券会社、クレジット会社等)
上記に当てはまった法人では貸倒引当金の計上が認められていますが、損金計上できる繰入限度額は決められています。税務上、回収が難しいと判断される額を回収不能見込額とし、その額を限度として損金計上が認められているという仕組みです。
税務上は貸倒引当金繰入限度額の算定にあたり、まず債権を一括評価金銭債権と個別評価金銭債権の2つに区分します。
一括評価金銭債権は、売掛金・貸付金及びそれらに準ずる金銭債権となっており、前払費用や一時的な立替金等は含まれない点に注意が必要です。
個別評価金銭債権は通常の債権回収が難しいと判断される債権で、債務者に生じている事由によって回収不能見込額の計算が異なります。さらに個別評価金銭債権は債務者に生じている事由により以下の4つに分類することができます。
- Ⅰ. 更生計画認可の決定等の事由に基づいてその弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合
- Ⅱ. 債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと等の事由が生じていることにより、その個別評価金銭債権の一部の金額につき、その取立て等の見込みがないと認められる場合
- Ⅲ. 更生手続開始等の申立て等の事由が生じている場合
- Ⅳ. 外国の政府、中央銀行又は地方公共団体に対する個別評価金銭債権につき、これらの者の長期にわたる債務の履行遅滞により、その経済的な価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けることが著しく困難であると認められる事由が生じている場合
5.税務上の貸倒引当金算定方法
まず一括評価金銭債権の場合、事業年度末の一括評価金銭債権に貸倒実績率を乗じた金額を限度額として貸倒引当金を計上できます。貸倒実績率は以下の算式が原則となっています。
(引用:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5501.htm)
資本金1億円以下の中小法人等については簡便的に以下の方法で計算することもできます。
(注)法定繰入率は下表のとおりです。
卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含みます) | 製造業 | 金融業及び保険業 | 割賦販売小売業並びに包括信用購入あっせん業及び個別信用購入あっせん業 | その他 |
---|---|---|---|---|
10/1,000 | 8/1,000 | 3/1,000 | 7/1,000 | 6/1,000 |
(※)令和3年4月1日前に開始した事業年度については、上記の「割賦販売小売業並びに包括信用購入あっせん業及び個別信用購入あっせん業」の法定繰入率は13/1,000となります。
(引用:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5501.htm)
個別評価金銭債権については前項で分類したⅠ~Ⅳで繰入限度額が異なってきます。
Ⅰの場合、会社更生法の更生計画認可の決定等の特定事由が発生した事業年度終了の日から5年を超えて支払われる金額となります。つまり5年以内に回収予定の金額は貸倒引当金として計上できません。
Ⅱの場合、金銭債権の金額から担保物処分見込額等の金額を差し引いた金額を貸倒引当金(回収不能見込み額)として計上できます。
Ⅲについては金銭債権の額から実質的に債権とみられない金額、及び担保物処分見込額等を差し引いた金額に50%を乗じた額を限度として貸倒引当金を計上できます。実質的に債権とみられない金額とは、例えば対象となる債務者に対して債権者側も債務をもっている場合、その金額は債権と債務が相殺され実質的に債権とはならないので金銭債権金額から控除することになります。
ⅣはⅢと同様の算定方法です。
6.おわりに
税務上の観点では、貸倒損失に比較すると貸倒引当金の方が判断は容易かもしれません。ただし会計上と相違が生じるケースでは、繰入金額を超過する金額には税効果を適用するなど別の留意点が生じてきます。
未曾有の経済停滞に晒されている中、貸倒損失や貸倒引当金の計上を考えなければならない場面は増えています。個々の事例で判断しなければならないこともありますが、基本の枠組みを当コラムでご理解いただければ幸いです。