令和6年税制改正大綱のポイント① ~法人税~

令和6年税制改正大綱のポイント① ~法人税~

1.はじめに

 2023年12月14日に令和6年税制改正大綱が閣議決定されました。今回は物価上昇に耐えうる所得の上昇が実現することを目的とした賃上げ促進税制の強化や、所得税・個人住民税の定額減税の実施等が盛り込まれています。

 今回から2回にわたり税制改正大綱のポイントをご紹介していきたいと思います。第1回目の今回は法人税の改正論点を中心に解説します。

2.賃上げ促進税制

 賃上げ促進税制については、大枠はそのまま適用期限が3年間延長されます。

 改正ポイントの1つは、今までは「大企業」か「中小企業」かの区分で、適用要件や控除率が異なっていたのが、今回の改正で新たに「中堅企業」という区分が追加された点です。「中堅企業」は常時使用する従業員の数が2,000人以下で、かつその法人と支配関係のある法人における使用人の数が常時1万人以下であることも要件になります。

 そして、控除率は、大企業と中小企業でそれぞれ以下のように改正されます。

表1

 例えば、大企業で最大控除率の35%を達成するには、給与等の増加割合が7%を超えた上で上乗せ条件の達成が必要になります。一方、中堅企業に該当する場合、上乗せ条件を達成できるなら、給与等の増加率は4%以上から最大控除率に到達します。

表2

 一方、中小企業においては、給与等の増加割合が2.5%で、上乗せ条件も全て達成した場合、最大控除率が45%となります。また、中小企業については、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額について、5年間の繰り越しを可能とする措置が新設されました。

 尚、大企業、中堅企業、中小企業のいずれも適用に際しては、細かな条件や注意点もありますので、実際に適用を考える際にはご留意ください。

3.交際費の損金不算入

 既存の交際費の損金不算入制度が3年間延長されます。また、飲食料費にかかるデフレマインドを払しょくするという観点から上限額の見直しが行われます。具体的には交際費等の範囲から除外される一定の飲食費等の上限を1人あたり5,000円以下から10,000円以下に引き上げられます。

 上記は令和6年4月1日以後に支出する飲食費等から適用されますが、事業年度ベースでの変更とならないため、3月決算法人以外の法人については、5,000円以下と10,000円以下の飲食費等に係る金額基準が混在するため留意が必要です。

4.イノベーションボックス税制

 イノベーションボックス税制とは、国内で自ら行う研究開発の成果として生まれた知的財産から生じる所得に対する税制優遇措置です。これまでも研究開発を促進するための税制として研究開発税制もありましたが、今回の改正では研究開発の成果物(所得)に対して優遇することで研究開発拠点として立地競争力を向上させより無形資産投資を後押しすることがねらいです。

 具体的には、以下のイ・ロのいずれか少ない金額の30%を損金算入することができます。

 現行の研究開発税制でも研究開発費の把握が実務上煩雑である、という声がありますが、このイノベーションボックス税制においても、その問題は生じています。特許権譲渡等取引ごとに所得の金額、直接関連する研究開発費の額、適格研究開発費の額を把握する必要があり、適用には準備が必要になります。適用を予定している場合はその把握方法等も今のうちから検討しておくと良いでしょう。

5.戦略分野国内生産促進税制の創設

 中長期的な経済成長を牽引し、供給力強化につながる分野としてGX・DX・経済安全保障を戦略分野として掲げ、これらに対する法人税額を控除する新たな税制措置です。具体的には戦略的な長期投資が求められ、生産コストの高い電気自動車等(蓄電池)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体の生産・販売数量に応じて減税が行われます。

適用要件

・青色申告書を提出する法人
・産業競争力強化法の事業適応計画について認定を受けること
・産業競争力強化商品生産用資産の取得等をし、国内にある事業の用に供すること

税額控除

 以下のイ・ロのいずれか少ない金額

イ.産業競争力強化商品のうち、その事業年度の対象期間において販売されたものの数量等に応じた金額
ロ.産業競争力強化商品生産用資産の取得価額を基礎とした金額

 なお、本制度は、デジタルトランスフォーメーション投資促進税制・カーボンニュートラル投資促進税制の税額控除との合計額で当期の法人税額の40%(半導体生産用資産は20%)が上限となり、税額控除の限度額を超える金額については、4年間(半導体生産用資産は3年間)の繰越が可能となります。

6.外形標準課税の適用対象法人の見直し

 広く負担を分かち合うことを目的として、資本金1億円を超える法人を対象として導入された外形標準課税でしたが資本金を資本剰余金に振り替える等の事例があり、導入時に比較して対象法人数は約3分の2にまで減少したとされています。そのため、税負担の公平性といった観点から見直しが行われました。

①減資への対応

 現行基準(資本金1億円超)に加えて追加基準を設けます。以下のイ・ロのいずれにも該当する場合、当該事業年度末に資本金が1億円以下であっても外形標準課税対象となります。適用時期は令和7年4月1日以後開始する事業年度からとなります。

イ.前事業年度に外形標準課税の対象法人である
ロ.資本金と資本剰余金の合計額が10億円

②100%子法人等への対応

 以下のイ・ロのいずれにも該当する場合、当事業年度に資本金1億円以下であっても外形標準課税の対象となります。適用時期は令和8年4月1日以後開始する事業年度からとなります。

イ.資本金と資本剰余金の合計額が50億円超の100%子法人等
ロ.資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超える(配当を行った場合は、配当に相当する額を加算した金額)

7.おわりに

 今回は令和6年税制改正大綱のうち、法人税の改正のポイントをご紹介しました。賃上げの拡大、生産力向上に向けた国内投資の促進、中小企業の活性化、といったことが日本経済の課題となっており、それに関連する多くの税制措置は期限が延長されています。

 次回は所得税や消費税関連の改正ポイントをご紹介させていただきます。
なお、今後の国会における改正法案審議が実施されていく過程で、一部項目の修正等が行われる可能性があることにご留意ください。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

メールマガジン購読のお申込みはコチラから
プライバシーマーク