上場を目指すには① ~IPOのメリットとデメリット~

上場を目指すには①~IPOのメリットとデメリット~

1.はじめに

 2023年の国内株式市場は円安による企業業績の改善等により日経平均株価は高い上昇幅をみせ、2024年上期はIPO件数も前年比で増加しました。また、シード・アーリー期の企業上場が増えたというのも2024年上期のIPO案件の傾向であり、これは下期も続く可能性が高いといえます。しかし、その後株価の乱高下が発生しており、IPO全体の潮流として、2024年下期はその勢いが低下してしまうことが懸念されます。

 IPOをこれから目指す企業にとっては厳しい状況といえる中、上場を目指すのが最善の策なのか一度立ち止まって考えてみるのが良いかもしれません。IPOが最適な選択肢なのか考える材料になるよう今回から2回にわたりIPOのメリットやデメリット等をご紹介します。

2.IPOの動機を整理する

 まず、なぜIPOするのかを充分に検討することが重要です。その動機によっては、IPO以外の選択肢がある、またはIPO以外の選択肢の方がふさわしい可能性があります。

 上位なのは資金調達の手段となるためかと思います。負債を増やすことなく財務体質を改善できるというのは経営者にとって魅力的です。ただし、資金調達がなぜ必要なのかということまで具体的に整理する必要があります。

 それからイグジットの手段となるためかと思います。上場することで創業者利得を得ることができ、事業承継や相続を有効に進めることもできます。

 他には社会的信用を得るためでしょう。取引に際して、上場企業だと与信管理でひっかかりづらくなりますし、企業の認知度やブランドイメージを良くしたいと理由も考えられます。そして、中小企業では経営者が借入金の個人保証をしているケースも多いですが、上場すればそれを外したいという要望も多く聞きます。

 他にも意外に多いのが、「競合他社が上場したから」、「昔からの夢だった」、というような経営者の個人的な想いで上場を目指すというケースです。個人の情熱ももちろん重要です。しかし、IPOに際しては経営者自身だけでなく従業員にも大変大きな負担がかかるため、従業員に説明し納得して動いてもらえるような動機を明示できるように整理しておきたいところです。

3.IPOのメリット

社会的信用の獲得

 顧客や取引先からの信頼が高まることで、ビジネスチャンスの拡大につながります。また企業認知度や信頼度があがり、ブランドイメージが向上することで優秀な人材が集まりやすくなります。また、従業員のモチベーションを高めることにもつながります。

資金調達

 一般投資家から広く資金調達が可能となります。これが上場の最大のメリットといえるでしょう。また、上場企業として信頼が高まったことにより、金融機関からの借入等もしやすくなるといえます。

株式流動化

 株式が流動化する、つまり自由に売買できるようになり経営者は自分の資産形成をすることができます。また未上場であっても家族が株式を相続すると相続税が発生するにもかかわらず、未上場株式は容易に換金できません。結果として納税できない事態に備えて株式を流動化しておくというケースもあります。また事業承継という観点からも、後継者候補を幅広く探すことができるというメリットもあります。

4.IPOのデメリット

費用負担

 上場準備には、上場審査、証券会社や監査法人に対する多額の報酬が準備期間から発生します。短くても上場の3年程前からは契約するのが通常で、上場スケジュールが遅れればさらに長期間にわたって発生することになります。また、上場後も維持のために会計監査人への報酬、有価証券報告書等の開示資料の作成、IR活動等に関連して費用が発生します。さらに、これらの業務にあたってはある程度の経理スキルが求められ、上場のために新たに有能な人材を採用しなければならないということも考慮しておかなくてはなりません。

ガバナンス強化

 上場企業には高いガバナンス体制が求められ、それは業務量の増加を伴うことがほとんどです。ガバナンスは大変広い範囲に及びますが、わかりやすいところでいうと情報開示等があります。有価証券報告書をはじめ、適時開示への対応だけでも大きな負担になります。それに加えて、従業員へ大きく負担となるのが内部監査体制の構築です。内部監査は内部統制の知識も必要ですし、会社の各事業部に関する業務の理解が求められます。この内部監査を担当する社員の確保も中小企業では難しく、アウトソーシングするケースも多いです。

株主からのプレッシャー

 上場すると株主が増え、経営者は監視される立場となります。株主は短期的な利益を求めていることが多いため、長期的視野に基づく経営判断が難しい場面も出てきます。経営の自由度は下がると考えてよいでしょう。

M&Aのリスク

 上場すると敵対的な買収を狙われるリスクもあります。ポイズンピルやホワイトナイト等買収防衛策は様々ありますが、株価の低下や経営が安定性を失うといった副作用も大きいことが多いため、株価や外部経営環境に普段から配慮しておかなければならないでしょう。

6.おわりに

 今回はIPOのメリットとデメリットを中心にご紹介しました。社会的信用の向上や資金調達、創業者利得といったメリットは比較的思いつきやすいのではないかと思いますが、デメリットは案外知られていないことも多く、上場準備を始めてからこんなはずじゃなかった、というケースが多くあります。上場にあたっては、経営者自身が理解することはもちろん重要ですが、前述したとおり従業員にも説明できるように落とし込むということも重要です。IPOは多くの従業員に影響を与えますが、特にオペレーション部門の従業員にとっては業務負担だけでなく精神的な負担も多くなります。ですので、上場にはどんなメリットとデメリットがあって、その上でこういう理由で上場をしたいというメッセージを伝えられる形にしておくのが理想です。上場準備によってかえって優秀な人材が流出してしまったという事態をまねくことがないよう準備をしておいていただければと思います。

 次回以降は上場準備についてもう少し具体的な話をしていきたいと思います。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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