改めて確認しておきたい インボイス制度の特例要件

改めて確認しておきたい インボイス制度の特例要件

1.はじめに

 インボイス制度が令和5年10月より開始され、多くの事業者が経過措置や特例を適用しているのではないかと思います。その多くは時限措置や事業規模に制限があります。また、適用の際には記帳の条件が決められているものもありますので、2024年度の決算に備え、改めて確認してみたいと思います。

2.仕入税額控除の経過措置

 まず、最も影響額の大きい仕入税額控除の経過措置についてです。仕入税額控除の経過措置は、適格請求書発行事業者以外の事業者からの仕入を行った場合、本来はその仕入にかかる消費税は全額仕入税額控除が認められませんが、救済措置として令和11年9月30日まで、その一部について仕入税額控除を認めるというものです。具体的には以下のように暫定的に控除額が減少していきます。

適用期間 仕入税額控除適用割合
令和5年10月1日~令和8年9月30日 仕入税額控除相当額×80%
令和8年10月1日~令和11年9月30日 仕入税額控除相当額×50%

 経過措置を適用するためには、記帳の要件として、区分記載請求書等保存方式における記載事項(以下の①~⑦)に加え、個々の取引ごとに「80%控除対象」というように、この経過措置を受ける取引であることを記録する必要があります。

≪区分記載請求書等保存方式における記載事項≫
① 発行者の氏名または名称
② 取引年月日
③ 取引内容
④ 取引金額
⑤ 交付を受ける者の氏名または名称
⑥ 軽減税率の対象品目である旨
⑦ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)

 また、上記の経過措置に関して令和6年10月1日以後の課税期間から適用される見直しがあります。具体的には、適格請求書発行事業者以外の事業者からの税込課税仕入額の合計がその事業年度で10億円を超える場合、その超過分についてはこの経過措置が認められないこととなります。

3.税抜経理時の注意点

 消費税に関する経理方式として税抜経理を選択し、前項の仕入税額控除を適用する場合、仮払消費税に計上する金額も適用期間に応じて「仕入税額相当額×80%」や「×50%」と変化します。例えば、同じ1,100,000円の資産として購入した場合、以下のような違いが生まれます。

ケースA【適格請求書発行事業者からの仕入】

→全額控除

貸方 借方
(資産)1,000,000円 (現金)1,100,000円
(仮払消費税)100,000円

ケースB【非適格請求書発行事業者からの仕入 令和5年10月1日~令和8年9月30日】

→80%控除

貸方 借方
(資産)1,020,000円 (現金)1,100,000円
(仮払消費税)80,000円

ケースC【非適格請求書発行事業者からの仕入 令和8年10月1日~令和11年9月30日】

→50%控除

貸方 借方
(資産)1,050,000円 (現金)1,100,000円
(仮払消費税)50,000円

ケースD【非適格請求書発行事業者からの仕入 令和11年10月1日以降】

→全額控除不可

貸方 借方
(資産)1,100,000円 (現金)1,100,000円

 このように、資産を取得した仕入先がインボイス登録を行っているかどうか、また仕入れ時期によって資産計上額が変わってきます。経理処理方法として、雑損失を用いた処理方法も考えられます。例えば、ケースB【非適格請求書発行事業者からの仕入 令和5年10月1日~令和8年9月30日】の場合、以下のように処理します。

(資産取得時)

貸方 借方
(資産)1,000,000円 (現金)1,100,000円
(仮払消費税)100,000円

(決算時)

貸方 借方
(雑損失)20,000円 (仮払消費税)20,000円
(減価償却費)200,000円 (減価償却累計額)200,000円

※5年定額法であると仮定して減価償却計算

 この場合の減価償却費ですが、法人税法上の資産取得価額はあくまで1,020,000円となります。そのため、減価償却限度額が204,000円(1,020,000÷5年)であるのに対して、損金計上している金額が20,000+200,000=220,000円なので、この差額16,000円(220,000-204,000=16,000)は減価償却超過額として加算調整が必要です。このように、会社の決算と税務会計の数値が異なると管理の負担が増えることにもなりますので、その兼ね合いを考えて経理処理方法を決定するとよいでしょう。

4.帳簿のみの保存で保存要件を満たす取引

 インボイス制度の下では、原則として適格請求書を保存しておかなければ仕入税額控除を適用できませんが、以下の取引については書類の交付を受けるのが困難であるとして、帳簿への保存のみで適用が認められます。

① 税込価額 3 万円未満の公共交通機関(船舶、バス、鉄道)による旅客の運送
② 税込価額 3 万円未満の自動販売機又は自動サービス機による商品の販売等
③ 郵便切手を対価とする郵便サービス(ポストに投函されたものに限ります。)
④ 簡易インボイスの必要事項が記載された入場券等が、その使用の際に回収されて
しまう取引
⑤ 古物営業、質屋営業又は宅地建物取引業を営む事業者が、適格請求書発行事業者
でない者から、古物、質物又は建物を棚卸資産として取得する取引
⑥ 事業者が、適格請求書発行事業者でない者から、再生資源又は再生部品を棚卸資
産として購入する取引
⑦ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当等及び通勤手当
ただし下記については適格請求書を保存しない場合、帳簿に記載すべき追記事項があります。
■上記の①~⑦の取引の内、どれに該当するかを記載する(「○○への入場券」)
■次の取引にかかる相手方の住所又は所在地
・上記⑤の取引のうち、古物台帳など、その業務に関する帳簿等へ「相手方の氏名及び住所」を記載する必要があるもの(税込 1 万円以上の買取等)
・上記⑥の取引のうち、事業者から購入するもの

5.おわりに

 今回は、昨年から適用開始となったインボイス制度について、間違えやすい点、令和6年度より変更になった点についてご紹介しました。

 消費税はインボイス制度の下でさらに複雑化しておりますので、特例等を適用する際はその要件を確認の上、処理されるようにご留意ください。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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