進む働き方改革、企業の対応は?
きたる2023年4月より、中小企業でも時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。経営面では大きな負担になる一方、高額の助成金も用意されており、ソフトウェアや機器導入のチャンスともいえます。本稿では、法改正の背景から、中小規模の事業者様が取り組むべき3つのポイントまでを概説しました。
時間外労働の法的扱い
労働者の労働時間の上限については、本来、労働基準法第32条で「週40時間、1日8時間まで」と定められています。これを法定労働時間といいます。
ただ、現実的には事業場ごとに繁閑期があり、上限を超えた労働を課す必要性が出る場面も少なくありません。そうした場合は、労使間で書面により協定を締結し、行政官庁に届け出た場合に限り、法定労働時間を超える労働、いわゆる残業や休日労働などの時間外労働が認められます。同法第36条に基づくことから、この協定は三六(サブロク)協定と呼ばれています。
さらに同法第37条では、時間外労働を課す場合、使用者は労働者へ割増賃金を支払わなければならない旨が続きます。割増率は、全企業に対して一律、通常の賃金の25%以上が定められています。
第32条……労働時間の定め(週40時間、1日8時間まで)
第36条……時間外労働についての例外(三六協定について)
第37条……時間外労働の割増賃金について
わが国特有の過労死問題
割増賃金の目的は、使用者に経済的負担を課すことで過度の時間外労働を抑制することにあります。ですが、これまでの日本の労働環境を鑑みるに、その役割を十分に果たしてきたとは、とてもいえません。
バブル崩壊と呼ばれる1990年代の景気後退期以降、リストラによる人員削減が進む一方で、好景気時の過重ノルマが継続して課される過酷な労働環境のなか、長時間労働・時間外労働が常態化。それを主因とする心筋梗塞やストレス性精神障害などの労働災害が社会問題として取り沙汰されるようになりました。いわゆる過労死/過労自殺問題です。
ピーク時の2006年には、じつに1,000件に迫る脳・心臓疾患に係る労災請求が、労働基準監督署に提出されています。
進む働き方改革
こうした日本の労働環境に対する国際的な批判を受け、月60時間を超える時間外労働についての割増賃金率が50%まで引き上げられました。1947年の労基法制定からじつに60年以上が経過した、2010年のことです。
ただ、この時点では、資力や労働者の過不足など経営環境の違いを鑑み、大企業のみの適用とされています。中小企業については、従来の割増率25%のまま、長らく猶予されてきました。
1カ月の時間外労働 1日8時間・1週40時間を超える労働時間 |
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60時間以下 | 60時間超 |
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25% | 50% |
その後、労働者を取り巻く環境は急速に変化しています。少子高齢化に伴う労働人口の大幅減少を受け、労働環境の改善なしに人材確保が難しい状況になりました。現在、多くの事業者様が時間外労働の縮小に取り組んでいるのは、すでにご存知のとおりです。
働き方改革の必要性が叫ばれるなか、2019年の改正労働基準法施行に伴う形で、中小企業の割増賃金も大企業を追う形で、同水準まで引き上げられることになりました。同改正法の施行は2023年(令和5年)4月からとなっています。
事業者様が対応すべき3つのポイント
割増賃金率が上がることを受け、事業者様側が業務上、早急に対応すべき問題が3つあります。
就業規則変更
労働基準法第89条では、就業規則に記載すべき内容について定められています。
すべての事業場で必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項と、事業場ごとに制度を設けている場合に記載する相対的必要記載事項がありますが、今回俎上にある割増賃金率は、絶対的必要記載事項に含まれます。
労働時間に関する定め……始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇などの事項
賃金に関する定め ……賃金の決定、計算及び支払方法、賃金の締切り及び支払時期、並びに昇給など
退職に関する定め ……解雇の事由を含む
したがって、今回の法改正に伴い、就業規則変更届を提出する必要があります。
助成金をチェック
一連の働き方改革関連法施行に伴い、厚生労働省は働き方改革推進支援助成金を創設しました。このうち、労働時間短縮・年休促進支援コースは、生産性向上・労働時間短縮に取り組む中小企業事業者を支援するものです。
助成額は最大480万円、助成対象となる取組みは、外部専門家によるコンサルティングや人材確保に向けた施策のほか、労務管理用ソフトウェアおよび機器導入も含まれます。
同助成金を受給するには、2023年1月13日(金)までに最寄りの労働局雇用環境・均等部(室)に交付申請書を提出する必要があります。締切が間近に迫っていますので、ご検討の事業者様はぜひお急ぎください。
業務効率化のためのソリューション
今回の法改正への対応は、慢性的な人手不足に悩む多くの中小規模事業者様にとって、小さな負担ではありません。ですが、従業員の健康と安全を考えれば、止めることのできない流れです。少ない人員で効率化を図り、労働時間短縮を実現する仕組みづくりを考える必要があります。
今回の法改正の詳細、具体的な割増賃金計算例や就業規則変更届出方法とともに、労務・勤怠管理のDXを実現するソリューションについてまとめたPDF資料をご用意しました。下のバナーから無料でダウンロードいただけますので、こちらもぜひご活用ください。
【参考】
・「平成28年版過労死等防止対策白書」厚生労働省
・「しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-」東京労働局
・「リーフレットシリーズ労基法89条」厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署