相次ぐ紙値上げ 事業者が対応すべきコスト管理は?
近年、大手製紙企業が相次いで紙価格の値上げを発表しています。本稿では、事業所におけるコスト増を懸念される事業者様向けに、紙価格高騰の背景とペーパーレス化によるコスト削減効果から事例まで、わかりやすく解説しました。
紙の値上がり、その原因は?
2022年11月、大手製紙企業2社が印刷用紙の価格改定を発表しました。値上げ幅はじつに現行価格の15%以上。同業各社も、この動きに追随するとみられています。
こうした紙の値上がりは、一過性のものではありません。日本銀行が発表する企業物価指数をみると、2022年4月の紙価格は、2015年と比較して112.7。長期的に高値で推移していることがわかります。
なぜ、いまこれほど紙価格が高騰しているのでしょうか?
1.燃料価格の高騰
原油先物取引価格と石炭価格の推移を図に示しました(図1・図2)。
いずれも新型コロナ禍による経済停滞で2020年初旬に落ち込んだのち、経済の回復に歩調を合わせて上昇しています。2022年のロシア・ウクライナ情勢によるエネルギー供給の混乱を受けて急騰しているのも、同様の傾向です。
大手製紙企業では、パルプから紙に加工する際の莫大な消費電力を賄うため、工場内に発電所を併設することも珍しくありません。こうした燃料費の高騰は、そのまま製造原価に跳ね返ることになります。
また、原油価格に伴い物流コストも上昇しているため、重く嵩張る商材を扱う製紙業は、二重の打撃を避けられません。
2.急激な円安
大手製紙企業が値上げの理由として口をそろえるのが、昨今の急速な円安です。
2022年10月には1ドル=150円台にまで下がり、32年ぶりの円安水準となりました。当然、輸入パルプの価格が上がることになり、製紙企業の利益は圧迫されます。
2022年11月に米CPI(消費者物価指数)の上昇率が予想を下回ったことを受け、1ドル=130円台まで戻してはいますが、今後、燃料価格や円安が安定する材料は乏しく、当面、紙価格が値下がりに転じることは考えにくいでしょう。
ペーパーレス化が対応の決め手
現在、多くの事業者様がコスト増を懸念され、オフィスのさらなるペーパーレス化を検討されているのではないでしょうか?
事業者や自治体から報告される数々の事例からも、ペーパーレス化の効果は明らかです。紙価格が上がるということは、今後、ペーパーレス化によるコスト削減効果もより大きくなっていくのは間違いありません。
ペーパーレス化とは?
ペーパーレス化とは、読んで字のごとく、これまで紙でやりとりしていた業務をデジタルに置き換える取組みを指します。
従来、タイムカードなどの勤怠記録や社内の各種申請書類の承認フロー、あるいは請求書や納品書などの帳票類、会議用資料などには、紙を用いるのが慣行でした。ただ、当然ながら、印刷や製本、郵便やFAXでのやりとりにはコストがかかります。加えて、日々発生する膨大な文書の管理はきわめて煩雑で、如何にも非効率です。
こうした状況は、多くの事業所にとって長らく看過できない経営課題であり、いまなお解決できていません。文書をPDFデータなどで電子化し、システム上で完結させるペーパーレス化への取組みは、多くの事業者にとってDXに向けた第一歩として認識されています。
ペーパーレス化の現状
ハンコ文化が根強い日本のビジネスシーンでは、職場のペーパーレス化について、これまでは諸外国に比較して遅れ気味でした。ただ、現在では、業務改善の観点からもESGの観点からも、その必要性が広く認識され、多くのオフィスで導入が進められつつあります。
ペーパーレス化の普及の背景には、政府の強い意向も介在しています。働き方改革を推進する厚生労働省、CO2排出量を削減してSDGsを実現したい環境省、関係書類を電子化して効率化したい国税庁など、省庁の垣根を超えて、ペーパーレス化はもはや国策のひとつです。関連した法改正や補助金制度が整備されたこともあり、民間企業もさかんに追随する動きをみせています。
令和2年度版情報通信白書をみても、ICT化による業務改善のなかで、ペーパーレス化が最優先事項になっていることがわかります(図3)。理由としては、最も手軽に始めることができ、すでに著明な効果が認められていることが大きいでしょう。普及によってツールの低価格化が進んでいることも、さらに後押ししています。
ペーパーレス化のメリット
コスト削減
用紙・プリンター・保管スペースなどのコストをカット
業務効率化
検索性やセキュリティ性の強化・省人省力化の実現
テレワークへの対応
場所を選ばない新しい働き方の実現
ペーパーレス化のメリットは数多く、単に印刷コストや保管スペースを削減できるというだけで推進されているわけではありません。最大の目的は、大幅な業務効率化と柔軟な働き方の実現にあります。
例えば、時間と労力をかけて大量の書類をファイリングしても、必要な書類をすぐに取り出せないのでは、業務には活用しづらいもの。電子データであれば、検索ボタンひとつで一秒もかからず閲覧でき、ファイリングや書類を探す手間も不要になります。紛失や持ち出しリスクもなく、パスワードによる保護設定なども可能になるため、高いセキュリティレベルの情報統制が実現できるでしょう。
また、現在では電子データをリアルタイムでやりとりできるさまざまなツールが普及したことで、リモートでも問題なく業務を行えるようになりました。テレワークによる副次的効果で、移動や出張費、会議スペースはおろか、オフィスそのものの費用も大幅に削減された事例があります。
ペーパーレス化のデメリット
メリットばかりのようにみえるペーパーレス化にも、デメリットがないわけではありません。デメリットを想定せずペーパーレス化に踏み切ったことで、結果として失敗した事例もあります。
ペーパーレス化はあくまで業務効率化を達成するための手段あり、ペーパーレス化自体が目的になっては本末転倒です。つぎに挙げるデメリットを踏まえたうえで、既存の書類のどの範囲までをデジタル化するのが効果的か、考えながら進める必要があるでしょう。
紙が効率的な場面も
校正や確認など、紙のほうが適している作業もある
導入コストの問題
長期的にみれば大幅なコストカットだが、初期投資は必要
セキュリティの問題
ランサムウェアなどの新たな問題が発生
ペーパーレス化のデメリットとして、紙のほうが効率的に業務を進められる場面、というのがしばしば発生します。
どういった業種であれ、業務のなかで文章の校正をするといった場面は少なくありません。細かな校正についていえば、デジタルよりも紙のほうが適していることは一般的に知られているところです。そうした場合においては、無理にペーパーレス化を推し進めず柔軟に対応したほうが業務に混乱がないでしょう。
次に、コストの問題です。
紙の印刷/保管コストや通信料など、大幅なコスト削減が期待できるペーパーレス化ですが、それはあくまで長期的視座に立ったときの話。ペーパーレス化を実現するには、まず、専用システムやタブレットなどを導入するためにまとまった初期投資が必要となります。
そのため、国からの支援策として、IT導入補助金が用意されています。ITツール導入費用を国が補助してくれるたいへんお得な同制度、ご関心のある事業者さまは別の参考記事をご覧ください。
最後に、セキュリティの問題があります。
総務省の調査によれば、業務のデジタル化が進まない理由として最も多いのは「情報セキュリティやプライバシー漏洩への不安」で、じつに52.2%の事業者が同様の回答をしています。
実際、日夜ニュースで報じられるように、企業がランサムウェアによってデータをロックされる事例は後を絶ちません。ペーパーレス化によって持ち出しや紛失リスクは小さくなるものの、別のセキュリティ脅威が発生するということです。
データを暗号化された場合、業務が完全に止まってしまいます。別途、セキュリティ環境を整える必要があるでしょう(参考記事:【2023年最新】ランサムウェア被害実態 ~もし感染したら?~)。
ペーパーレス化によるコスト削減事例
ペーパーレス化は国を挙げての取組みであり、官公庁が先行して導入を進めています。そのため、自治体からの事例報告は、豊富に蓄積されています。そのなかでも、コスト大幅削減に成功した理想的なモデルケースを3つ、ご紹介しましょう。
こうした事例の共通点を分析すれば、必然的に再現性の高い導入が可能になる筈です。
1.長野市のペーパーレス会議導入事例
ペーパーレス化の成功事例として、長野市は最も顕著な例のひとつです。
同市では、会議の資料印刷・配布・差し替えに多大な労力とコストを要していたことが大きな課題でした。電子市役所を推進する立場にあったことから、2009年より会議用ツールを用いたペーパーレス会議を実施しています。
同年度に78回の会議をペーパーレス化して300万円のコスト削減に成功したほか、資料印刷や配布など会議の準備時間を六分の一に縮減したと報告されています。
2.愛媛県西予(せいよ)市のオフィス改革事例
人口減少と財政の悪化から、より少ない職員で多くの業務にあたる必要が生じていた西予市では、2014年からICTを柱にしたオフィス改革モデルプロジェクトに着手。
文書の電子化やWeb会議導入によってコピー使用量が半減・FAX代に至っては十分の一に縮減され、業務効率は20%向上。年換算で1,600万円のコスト削減に成功しました。
稀有な成功例として全国から続々と視察を申し込まれており、現在では市全体が活気づいているとのことです。
3.愛知県安城市における市議会の視える化事例
安城市では、市議会の活動内容について市民から理解を得られていないことが課題となっていました。
これを受け、2015年にICT推進プロジェクトを発足。開かれた議会をめざして、議会HPの刷新、タブレットを用いた電子採決や資料のペーパーレス化、市民へのリアルタイム配信などを盛り込んだ独自の改革が進められました。
結果、議会HPのアクセス実績は2.2倍になり、印刷にかかわる人件費や製本費など222万円のコスト削減に成功しています。
ペーパーレス化の進め方、3つのポイント
ひと口にペーパーレス化するといっても、具体的になにから始めればいいのかお悩みの事業者様も多くおられることでしょう。また、システムを導入したことで、費用ばかりかかって逆に現場の業務が混乱することになっては本末転倒です。
ペーパーレス化を成功させるにあたり、ポイントとなるのは以下の3つです。
1.対象業務を絞る
先に挙げた自治体の成功例に学ぶべき工夫は、まず、ペーパーレス化の対象業務を絞ったことです。
ペーパーレス化の対象業務が明確であれば、必要なツールもおのずと明らかになります。現場レベルでも目的意識を持って取り組むことができるでしょう。すべての業務を闇雲にペーパーレス化するという進め方は、お勧めできません。
2.ほかのシステムとの連携を考える
くり返しになりますが、オフィスのペーパーレス化はあくまで業務効率化が目的であって、システム化自体が目的ではありません。不慣れなシステムが乱立することで、かえって運用が複雑化するという失敗は避ける必要があるでしょう。
例えば、会計システムやERPなどすでにさまざまなシステムが導入されている場合、あるいは導入予定のシステムがほかにもある場合は、ペーパーレス化のツールはそれら他システムとのデータ連携や拡張性までを見据えて選定する必要があります。
3.電子化する書類の保存方法を決める
併せて、電子化した際のファイル形式や保存年限、共有範囲などのルールを決めて周知を図れば万全です。
以下のフローチャートのような手順を踏めば、混乱なく、また、目的意識を持って職場のペーパーレス化を図れるでしょう(図4)。
ペーパーレス化支援ツール
内田洋行ITソリューションズでは、ペーパーレス化を支援するさまざまなツールをご案内しています。
1.Microsoft 365
新型コロナ禍以降、Web会議やクラウド利用によるデータ共有はごく一般的になりました。ただ、無料提供のサービスはセキュリティ面の不安が否めません。
おすすめのサービスは、やはり定番のMicrosoft 365。テレビ電話機能も備えたチャットツールTeamsや社内掲示板として電子データを共有できるSharePointは、いまやビジネスシーンのスタンダードです(参考:2022年、新しい働き方を始めませんか? Microsoft 365ならここが違う!)。
同システムは、セキュリティに関するISO基準をみたしており、テレワークでの懸念事項となる情報流出などのリスクを最小限に抑えます(参考:リモートワークで有効なエンドポイントセキュリティとは?)。
2.文書管理システム“UC+ドキュメント”
会議用ツールと並んで便利なのが文書管理システムです。
クラウドサービスラインナップ、UC+シリーズの第三弾となるUC+(ユクタス)ドキュメントは、Web-APIにより他の会計システムやERPと容易に連携、電子化した文書ファイルを一元管理することが可能。紙書類を電子化して管理するうえですぐれた検索性やセキュリティ性など必要な機能を備えるほか、電子帳簿保存法の法的要件にも対応しています(参考:電帳法対応は大丈夫? 文書管理システムを選ぶ3大ポイント)。
法改正されたばかりのこのタイミングで導入すれば、大幅なコストカットと法対応、一挙両全の施策となることは間違いありません。
詳細な製品資料については、下記よりダウンロードできます。こちらもぜひご活用ください!
【参考】
・日本銀行「企業物価指数の公表データ一覧」
・中小企業庁「2022年度版 中小企業白書」
・独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 「石炭価格動向(2022 年 10 月)」
・日本貿易振興機構 「米FRB、政策金利を3会合連続で0.75ポイント引き上げ、年末までに4%台半ばまで利上げの見通し」
・内閣府「日米欧の政策金利の推移とバランスシートの推移」
・総務省「情報通信白書」
・総務省「10のワークプレイス改革の取組」(詳細版)」
・総務省「ICTを活用したペーパーレス化から働き方改革への取組み (愛媛県西予市)」
・安城市「~市民と繋がる安城市議会~Smart議会の高みを目指して!」
・J-Net21「ペーパーレス化はどのように進めればよいでしょうか。」