変革迫られる製造業
デジタル時代における販売経路(チャネル)はめまぐるしい変化を遂げており、特にポストコロナ時代ではECを組み合わせたオムニチャネルを意識しないビジネスは成立し得なくなっています。本稿では、以前取り上げたデータドリブンと対を成すマーケティングの新概念オムニチャネルについて、また、“製造業こそ”オムニチャネル化に取り組むべき理由について概説します。
INDEX
1.オムニチャネルとは?
2.デジタル時代における販売経路の変遷
3.第四のチャネル、オムニチャネルのメリット
4.オムニチャネル戦略を成功させるポイント
5.オムニチャネルは製造業でこそ真価を発揮する
オムニチャネルとは?
成熟した日本経済において、成長戦略と呼べるモデルは決して多くありません。そうしたなか、現在、貴重な例として有力視されているマーケティング手法がオムニチャネルです。
EC市場の拡大
その背景として、まず、EC(Electronic Commerce;電子商取引)市場規模の推移について確認してみましょう(図1)。
経済産業省の発表では、2021年の国内BtoC-EC(消費者向け電子商取引)の市場規模は20.7兆円、BtoBでは372.7兆円。それぞれ前年比7.35%/11.3%増を記録しています。
新型コロナ禍の影響以降、多くの企業にとってECがより重要な販路になっているのがわかります。
マーケティングの新概念、オムニチャネル
英語「omni」が「全体の」を意味するとおり、オムニチャネルは実店舗とECサイト、あるいはSNSやアプリまで、すべての販売経路がシームレスに繋がった状態を理想形に掲げます。それによって顧客により快適な購買体験を提供し、同時に企業は購買情報や顧客属性などのデータを蓄積することで、より深い顧客理解を得ることができます。
EC全盛の現代では、オンラインとオフラインの融合を目指すOMO(Online Merges with Offline)と並んで無視できない販売戦略といえますが、やや難解な概念といえるかもしれません。
理解を深めるために、次項ではこれまでの販売経路の変遷についておさらいしてみましょう。
デジタル時代における販売経路の変遷
チャネルとは販売経路、すなわち商品と消費者のタッチポイントを指します。
これまで製造業が提供する製品は、小売店や販売代理店といった流通企業を経由して消費者にわたるのが当然とされてきました。ですが、現代ではチャネルの多様化に伴い、従来の常識に囚われない対応が求められるようになりつつあります。
1.シングルチャネル
1990年代まで、販売経路といえばほぼ実店舗のことを指しました。
顧客がスーパーマーケットや量販店、百貨店へ足を運び、直接商品を購入する、こうした状態をシングルチャネルと呼びます。
2.マルチチャネル
国内大手小売企業が続々とECサイトを開設し、ビッグテックの一角Amazonが日本に上陸した2000年こそ、日本におけるEC元年といえるでしょう。
この時期から、消費者は用途や都合に応じて、実店舗/ECサイトから購入先を選べるようになりました。また、都市に限らず地方でも、距離や時間を問わず、欲しい商品を手に入れられる環境が整います。移動が難しい高齢者や多忙なビジネスマンにとって利便性が増したのはもちろん、企業側も多くの潜在顧客にアプローチできるビジネスチャンスを得ました。
多くの流通業者が追随し、実店舗とオウンドECを並行して手掛けるようになった当時の状態は、消費者と商品の接点が複数あることから、マルチチャネルと呼ばれます。
3.クロスチャネル
流通の革命と思われたマルチチャネルですが、黎明期においては実店舗とECで在庫/顧客管理が統合されていなかったため、例えばECサイトでは品切れなのに実店舗では廃棄ロスが生じる、といった非効率が問題視されるようになりました。
これを解決した概念が、サプライチェーンを統合し、在庫/顧客管理を一元管理するクロスチャネルです。クロスチャネルが主流となった2000年代中盤以降、流通企業は無駄のない販売活動を行えるようになりました。
第四のチャネル、オムニチャネルのメリット
オムニチャネルはクロスチャネルからさらに発展した販売経路の最新型です。
2010年代以降、スマートフォンの普及に歩調を合わせるように台頭したオムニチャネルは(図2)、同じく急成長するさまざまな情報技術、AIや各種セールステック(SFA、MA、CRM)と結びつき、多くの企業に販売経路の選択肢以上の利益をもたらしました。
消費者理解
オムニチャネルにおいては、一元管理した顧客の年齢や性別などの属性情報と購入履歴を基に、より精度の高い消費者理解をめざすことができます。
収集したデータを分析して意思決定や企画立案に役立てる方法論データドリブンとともに、現代においてデジタルマーケティングの両輪を成す概念といえるでしょう。
IDによる顧客管理
実店舗で管理する顧客IDとECでの顧客IDを統合することで、効率的な販促を行うこともできます。
複数のチャネルで得た顧客情報をひとつのIDで管理すれば、例えば実店舗での購買履歴を基に、間髪入れずECチャネルでも類似商品をレコメンドできるようになります。また、商品が消費財であれば、一定期間後に買い増しを促すといった施策も有効になるでしょう。確度の高い顧客のみをセグメントしてDMを発送するパーソナライズDMといったマーケティング手法も、すでに珍しいものではなくなりました。
このように、蓄積したデータを基に、顧客一人ひとりに合わせたOne to Oneマーケティングを行えることが、オムニチャネルの最大のメリットです。
オムニチャネル戦略を成功させるポイント
オムニチャネルの理想形であるシームレスな購買体験を消費者に提供するためには、物流網の整備も重要ですが、なにより在庫の一元管理が必要不可欠です。
いうまでもないことですが、在庫を切らせば販売機会を逸失して、顧客離れを招きます。かといって、過剰に在庫を抱えれば、保管コストや廃棄ロスを招き、大きな損失になるでしょう。
EC台頭以後、宅配便の取扱個数は増加の一途を辿っており(図3)、配送やピッキング作業も、複雑化する一方です。
実店舗/ECチャネル双方でめまぐるしく増減する在庫を管理することは、容易ではありません。多くの企業では、クラウド型ERPシステムを導入することで、オムニチャネル化に対応しています。
ERPはEnterprise Resource Planningを略したもので、直訳すれば企業資源計画、一般には統合基幹業務システムとも呼ばれます(図4)。
具体的には、生産・物流・販売・会計と、部門をまたぐ業務間の情報一元化・効率化を図るもので、オムニチャネル時代の製造業では必須となるシステムといえるでしょう。
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オムニチャネルは製造業でこそ真価を発揮する
新しい販路といえるオムニチャネルですが、流通業だけに関わるものではありません。すでにお伝えしたとおり、製造事業者様こそオムニチャネル化による恩恵が大きいと考えられます。
現に、提供する専用アプリを通じて顧客の属性情報や購入履歴を把握し、効率的な在庫管理と生産管理を実現した製造流通業の事例は少なくありません。
製造流通以外の一般的な製造業も、同様です。これまでの多くの製造業事業者様は、流通業に配慮してECサイト開設に消極的でした。ですが、時代は変わり、いまではECに注力する製造業事業者様も珍しくありません。従来、製造業は製品を消費者に届ける際、流通企業を間に通すため、消費者の生の声に触れる機会が乏しいという課題を抱えていました。ですが、そうした弱点も、オムニチャネル活用による消費者理解によって克服できると考えられています。
オムニチャネル時代における販売競争の激化・高速化への対応は、多くの製造業事業者様にとって、たやすい課題ではありません。ですが、一方で大きなビジネスチャンスであることは疑いようがないでしょう。
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【参考】
・経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
・総務省「情報通信機器の保有状況」
・国土交通省「宅配便と再配達の現状」