IT導入補助金、審査のカギは“クラウド”?
最大450万円と高額な補助額から、例年注目を集めるIT導入補助金。応募要項をみると、加点項目として“クラウド導入”が挙げられています。本稿では、現代ビジネスと技術革新の高速化に対応するための“要”に位置づけられるクラウドについて、概要からメリット、選定ポイントまでをわかりやすくまとめました。
クラウドとは?
クラウドはクラウド・コンピューティングの略称で、データやアプリケーション等のコンピューター資源をネットワーク経由で利用する仕組みを指します。マイクロソフト社が提供するMicrosoft 365やMicrosoft Azureは、その代表例といえるでしょう。(参考記事:新しい働き方のご提案、Microsoft 365ならここが違う!)
Microsoft 365に含まれるチャットツール“Teams”やオンラインストレージ(記憶装置)“OneDrive”は、すでに多くの事業所でなくてはならない定番ソフトウェアです。もう一方のMicrosoft Azureは、AI開発やデータベースを利用できるサービスで、よりエンジニア向けに特化した位置づけとなります。
ユーザー側で意識することは少ないでしょうが、これらのサービスはPCやスマートフォンなど端末側だけで動作しているわけではありません。ネットワークで繋がるデータセンターのサーバーやストレージと連携することで、はじめて実現されるサービスです。
クラウドの利用動向は?
情報通信白書令和4年版によれば、2020年のパブリッククラウドサービス国際市場は35兆315億円で前年比27.9%増(図)。新型コロナ禍以降のニューノーマルな企業活動にとって、クラウドがきわめて重要な役割を果たしていることがわかります。
2024年の予測値に至っては、2020年の2倍以上。この数年のうちで、さらに急速に普及が進む公算です。
前回の記事では、中小企業がITツールを導入する際に費用の一部を国が負担してくれるIT導入補助金についてお伝えしました。その要綱には、審査の加点項目としてクラウド製品やインボイス制度対応製品の導入が挙げられています。
同制度は、中小企業の支援を通して日本企業のDXと生産性の底上げを図ることを目的としており、言い換えれば、クラウド環境の普及はその“要”に位置づけられているということです。
では、なぜいまクラウドがこれほど重要視されているのでしょうか? クラウド誕生の背景に目を向ければ、その理由もおのずとご理解いただける筈です。
クラウド(cloud)――名称の由来
インターネットの先にある外部コンピューターの形態が実際にどうなっているのかは、ユーザーにとってわかりづらいものです。
そうしたイメージから、図示する際に雲のかたまりのアイコンで表現することが慣例化したことから、「cloud=雲」の名称が定着しました。
クラウドが生まれた背景と歴史
クラウドの対になる概念として、オンプレミスがあります。英語ではon-premises、直訳すれば「店内」「構内」となり、転じて自社設置型システムを指します。運用するうえで必要なソフトウェア/ハードウェアを自社で保有・管理する、従来型の運用形態です。
システムの安定性という利点から、かつて主流だったオンプレミスですが、克服しがたい弱点も抱えていました。自社内にサーバーやソフトウェアを置くため、導入の初期費用が高額になることがひとつ。また、メンテナンスやカスタマイズのたびに費用や労力がかかることがふたつ。
アップデートのたびに大きなコストを支払うのでは、システム環境を最新に保つことが困難です。IT分野の技術革新は日進月歩であり、オンプレミスという形態は次第にその足枷と見做されるようになりました。そうした課題を受け、オンプレミスに代わる概念として登場したのがクラウドです(表1)。
クラウドという言葉と概念は、2006年、Google社のCEO、エリック・シュミット氏の言及によって一躍、脚光を浴びました。
オンプレミス | クラウド | |
---|---|---|
導入コスト | × 高額 | ◎ 安価 |
保守 | × 困難 | ◎ 手軽 |
カスタマイズ の自由度 |
〇 高い | △ いまひとつ |
セキュリティ | 〇 高い | 〇 向上している |
従来のオンプレミスはレガシー(遺産)システムと考えられるようになり、近年では、クラウド方式がすっかり浸透しています。
クラウドの種類
ひとくちにクラウドといっても、さまざまに分類されます。クラウドのメリットについて詳説する前に、クラウドの種類について整理してみましょう。
利用形態での分類
クラウドはまず、その利用形態からパブリッククラウドとプライベートクラウドの2種に大別できます。
パブリッククラウドとは、企業もしくは個人など、不特定多数でオープンなクラウド環境を共有する形態を指します。 必要なとき、必要なだけクラウド環境のソフトウェアやサーバーを使うことができます。
一方、プライベートクラウドとは、企業・組織が自社専用のクラウド環境を構築し、社内やグループ会社だけで使用する形態をいいます。企業内でシステムを設計・管理するため、柔軟な設計が可能。クローズドならではのセキュアな環境で運用できる点も、大きなメリットです。
さらに、パブリッククラウドとプライベートクラウドを併用してそれぞれのメリットを活かす形態は、ハイブリッドクラウドと呼ばれます。
サービス内容での分類
ほかにも、提供するサービス内容から以下の3つに大別されます(表2)。
SaaS (Software as a Service) |
サースと読む。ネットワークを介してアプリケーションの機能を提供するサービス 【例】Microsoft 365、クラウド型ERPなど |
---|---|
IaaS (Infrastructure as a Service) HaaS (Hardware as a Service) |
イアースあるいはアイアース/ハースと読む。呼び名は違えど意味合いは同じ。ネットワークを介してコンピューターやストレージ、ネットワークなどのハードウェア機能を提供するサービス。1台の物理的なコンピューターのなかに複数の仮想的なコンピューターを作成し、同時に動かせるようにする仮想化の技術が使われている。 【例】Microsoft Azure |
PaaS (Platform as a Service) |
パースと読む。ネットワークを介してアプリケーションプログラムを開発・実行するためのツールや環境(プラットフォーム)を提供するサービス。近年ではデータ分析やAIの最新技術も組み込まれており、イノベーション創出や少子高齢化に伴う人手不足解消に向けた自動化の仕組み開発などに利用される。 【例】Microsoft Azure |
クラウドを使ってなにができる?
では、クラウドの導入によって具体的になにができるのでしょうか? クラウドによって拡張されるビジネスの可能性についてみていきましょう。
基幹システム/ERPの拡張
IT導入補助金の活用事例で目立つのは、やはりなんといってもクラウド型基幹システム/ERPに関するものです。
例えば、会計システムが原価や販売を管理する他の基幹システムと連携していない状態では、データの二重入力などの作業ロスが生じます。ヒューマンエラーも避けられないでしょう。
BCP対策
BCPとはBusiness Continuity Planningの略で、事業継続計画と訳されます。自然災害やパンデミックなどの非常事態が起こった際、そのなかで事業を継続あるいは速やかに復旧するための体制づくりを指し、災害の多い日本では、特に重要な施策のひとつです。
2011年の東日本大震災の際、ご存知のように医療施設の多くが壊滅的打撃を受けました。多くの病院で救急活動が難航するなか、カルテのデータを電子化しクラウドに移管していた医療施設は、いち早く医療活動を再開したことが報告されています。以後、BCPの一環としてのクラウド利用の有効性は、広く認められているところです。
情報は21世紀の石油という言葉が示すとおり、現代ビジネスにおいては、形のない情報こそが最も価値ある資産。それを如何に守るかは、多くの企業にとっての生命線です。
日々のデータのバックアップがあれば、災害のみならず、システム障害やランサムウェアの被害も最小限に抑えられます。自動でバックアップするシステムであれば、手作業での漏れも防ぐことができるでしょう。
コミュニケーション/データ共有
ネットワークを介して不特定多数で外部サーバーを共用するクラウドの特性は、チャットツールやWebメールはもちろん、Web会議やグループウェアなど、リアルタイムでのコミュニケーションとの相性が抜群です。スケジュールや知見を共有し、チームの活性化を図ることができます。
また、オンラインファイル転送システムを介せば、大容量データをタイムラグなしに、しかも安全に共有できます。ウェビナーが普及した現代、動画データなどサイズの大きなファイルをやり取りする機会が急速に増えました。そうしたなか、クラウド活用によって混乱を最小限に抑えることができた事業者さまも少なくない筈です。
リモートワーク
クラウド上にデータを保存することで、場所や端末を問わず、ネットワークを通してデータ閲覧および編集ができるようになります。出張先や、移動時間での対応も可能。こうした特性は、チームのコミュニケーション強化とともに、リモートワークのうえでも有用です。
特に、紙伝票や帳簿の管理を受け持つ経理担当者は、新型コロナ禍のなかでも出社を余儀なくされる場面が多くありましたが、電子帳簿保存法に対応した文書管理システムによってリモート対応できるようになった導入事例は枚挙にいとまがありません。クラウド登場以後、私たちは時間や場所という概念から解放され、より自由な働き方を実現できるようになったといえるでしょう。
クラウドを導入する3大メリット
クラウド導入のメリットは数多くありますが、特に代表的な3つに絞ってご紹介します。
コスト・パフォーマンス
クラウドの最大の特徴は、サーバーやソフトウェアを購入する必要があるオンプレミスとは違い、導入に際して高額な費用が必要ないということです。
クラウドサービスは月額や年額支払などのサブスクリプション方式で提供されています。喩えるなら、住居を購入せずに賃貸で済ませるようなもの。高額の頭金なしに高性能サーバーの一室を間借りし、支払いは月々の家賃分で済みます。保守管理を提供元が行ってくれるのも、賃貸住宅同様です。
これにより、ユーザーは事業やプロジェクトに必要な環境をすぐ手にでき、その管理に手をとられることもありません。常に最新・最善の環境で、自社の本業に専念することができます。
セキュリティ強化
クラウドは非常に有用ですが、外部サーバーにデータを置くことを躊躇される事業者さまも多くおられます。ネットワークを介している以上、第三者の不正アクセスや情報漏洩は、理論上、100%ないとは言い切れないからです。システム障害や盗難、あるいは物理的な損傷によるデータ消失なども懸念されるため、無理からぬことといえるでしょう。
そうしたリスクを鑑み、社内だけのクローズド環境であるオンプレミスのほうが信頼性は高いと考えられていた時期もありました。ただ、現在、クラウドのセキュリティは飛躍的に向上しています。
なかでも、マイクロソフト社が提供するクラウドセキュリティは、幾重もの通信暗号化が図られ、特に堅牢とされています。
日本データセンターを2カ所に設け冗長管理することで、自然災害などのリスクに対応。片方が被害に遭ったとしても、もう一方から早急なデータ復旧が可能です。
国際的な情報セキュリティ基準であるISO 27001や27017に準拠した環境が構築されており、クラウド情報セキュリティ監査制度のゴールドマークを取得しています。
一般企業でマイクロソフト社以上のセキュリティ環境を構築することは、現実的に不可能です。クラウドのセキュリティ面にはほかの提供元も競って多額の投資を行っています。総合的にみた場合、オンプレミスよりもクラウドのほうがむしろ安全といわれる所以です。
補助金の審査対策にも!
補助額が最大450万円と高額なため、例年注目度が高いIT導入補助金。ただ、すべての応募者が交付を受けられるわけではありません。
当然ながら、厳正な審査があります。
前述したように、クラウド製品の導入は審査の加点項目と明記されており、クラウドサービスの導入や他システムとの組み合わせは、審査を通過するうえできわめて有用な施策といえます。
クラウド導入のポイント3つ
数々のメリットを持つクラウドですが、デメリットがないわけではありません。導入にあたっては、さまざまな問題がクリアになる製品/ベンダーを選ぶことが肝要です。以下、選定の注意点についてまとめました。
ポイント1.信頼できるベンダーを選ぶ
製品やサービス内容と同等以上に、ベンダー(提供元)を吟味することはたいへん重要です。クラウドサービスは買い切り型のサービスではないため、必然的にベンダーとは長期的な付き合いになります。信頼できるベンダーであること、また、サポートが充実していることは、選定のうえでまずチェックすべきポイントです。
システム障害やそれに類するトラブルが発生した際、サポートの対応が遅い、あるいは粗雑であっては業務に支障が生じるでしょう。経営環境の悪いベンダーでは、最悪の場合、倒産によりサービス自体が使えなくなることもあります。
ポイント2.サービス内容をチェック
導入の決め手となった機能がじつは追加オプションサービスで、別料金になっていたことがのちに発覚するなどのトラブルも少なくありません。結果、想定以上の出費となり、かえってコストがかさむことも……。
サービス内容については、導入前に綿密な確認をしておくことが重要です。
ポイント3.カスタマイズ性/拡張性は?
自社で買い切ったシステムであれば自由にカスタマイズできますが、第三者のサーバーを間借りしているクラウド環境では、当然ながら自由度の面で劣ります。そうした問題をクリアするため、複数のベンダー/システムを組み合わせて併用し、自社の運用方法に合致したシステムを構築する実装モデルが近年注目を集めています。
いわゆるマルチクラウドです。
クラウドが社内システムの中枢を担うようになった現代では、単一のベンダーに依存するベンダーロックインは大きなリスクですが、マルチクラウドであれば、そうしたリスクも最小限に抑えられます。
また、すでに導入している基幹システム/ERPとデータ連携を図れるかどうかも重要な選定ポイントです。システムの相性次第では、業務効率化を図れないばかりか、現場のワークフローがかえって混乱しかねません。システムの拡張性は、必須のチェック事項といえるでしょう。
おすすめクラウドサービス
日々、加速するビジネスサイクルや技術革新、めまぐるしく変化する社会情勢と顧客ニーズ。それらに柔軟に、かつ即時に対応するために、クラウド環境の導入はマストといえます。IT導入補助金の加点項目/補助対象になることもあり、制度と低価格化が相まったいまは、またとない導入のチャンスといえるでしょう。
内田洋行ITソリューションズでは、ERPや基幹システムに連携するクラウドサービス、UC+シリーズをご案内しています。
Web APIにより、お手持ちのERPや基幹システムと容易にデータ連携。前述のAzureを基盤とする国際水準のセキュアな環境を実現! ERPや基幹システム単体では解決できないさまざまな課題に対して、多様なソリューションをご提供するオプションシリーズです。
特設サイトもオープンしていますので、ぜひそちらもチェックしてみてください!
よくある質問
- Q今後のクラウドの動向は?
- A2020年のパブリッククラウドサービス国際市場は35兆315億円で前年比27.9%増。2024年の予想値に至っては2020年の2倍以上、この数年のうちでさらに急速に普及が進む公算です。一方で、オンプレミスの安定性を見直す動きもあり、クラウドに一部オンプレミスを組み合わせるシステム構成が主流になるかもしれません。そのあたりの見極めはぜひ、信頼できるベンダーにご相談ください。
- Qクラウド導入がIT導入補助金審査の対策になるというのは本当ですか?
- AIT導入補助金の要綱には、審査の加点項目としてクラウドシステムの導入について明記されています。補助額が非常に高額であることから、例年、応募社数が多い同補助金ですが、審査の対策としてクラウドシステム導入あるいは他システムと組み合わせることは、非常に有効な施策といえます。
【参考】
・総務省「情報通信白書平成30年版」
・総務省「情報通信白書令和4年版」
・総務省「クラウドサービスとは?」
・経済産業省「ミラサポplus 中小企業向け補助金・総合支援サイト」
・矢野経済研究所「プレスリリース ERP市場動向に関する調査を実施(2022年)」