電子契約のメリット/導入のポイントは? おすすめサービスまで【2023最新】

公開日:2023.10.11
更新日:2024.1.12

法整備は万全、電子契約のメリットとは?

旧来のハンコ文化は、いまや時代にそぐわない非効率な業務の典型とされています。テレワークなど新しい働き方に対応すべく、新型コロナ禍以降、書面押印を義務づける法律が続々と改正。ビジネスシーンは、現在、大きな転換期を迎えています。多くの業界で導入が進む電子契約について、そのメリット、適法性から導入のポイントまで、わかりやすく解説します!

電子契約とは?

契約書を交わす際の本人認証、申請/承諾の意思表示に、わが国では長らく署名捺印が用いられてきました。こうした手続きは、書面の信用性を担保するうえで非常に有用でしたが、現代においては非効率な業務フローの典型と見做されています。

脱ハンコ文化の代替ツールとして普及が進む電子契約は、従来の書面による契約プロセスについて、インターネットを介してデジタルで完結させるというものです。

電子契約イメージ

決裁者不在で契約が進まない、あるいは押印のためだけに出社しなければならない。これまであらゆる事業所でみられたそうした光景は、電子契約の登場によってすでに過去のものになりつつあります。

アナログでの契約業務は、印刷・製本・郵送の往復など、煩雑な手間を避けられません。電子契約なら、締結までの業務フローを圧倒的に短縮できます。

また、電子契約書はクラウドサーバー上に保管されるため、管理性が向上するのも大きなメリット。導入ハードルが低く、費用対効果も大きいため、DXの第一歩として注目されています。

法律上の「書面」とは?

民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律第2条の3において、書面とは紙その他の有体物と定義されている。法律上、単に書面という場合、電子ファイルやeメールを含まない。

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電子契約の導入状況

新型コロナ禍以降、テレワークはすっかり新しい働き方として定着しました。それに伴い、多くの事業所/官公庁でペーパーレス化が推進されており、総務省の統計にも顕れています(図1)。

昨今の官民挙げての取組み、脱ハンコおよび契約プロセスの電子化も、そうした動きの一環といえるでしょう。

統計

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進む法整備

わが国における文書への押印慣行については、政府も抜本的に見直す意向を示しており、それを受けて令和3年(2021年)、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律が公布されました。

同法は、これまで書面でのやりとりが義務づけられていた各種契約手続きについて、電磁的方法による代替を認めるというものです。これを受けて48法律が一斉に改正、各業界で契約プロセスの電子化を進めるうえでの土台となりました(表1)。

表1 2021年以降の法改正により電子化が容認された契約関係書類一覧
根拠法令 電子化が容認された書類
宅地建物取引業法 35条書類(重要事項説明書類)
37条書類(売買契約書/賃貸契約書)
不動産特定共同事業法 不動産特定共同事業契約の成立前に交付する書面
マンションの管理の適正化の推進に関する法律 マンション管理業者による管理受託契約に係る重要事項説明書
借地借家法 定期借地権の設定や定期建物賃貸借における契約に係る書面、事前説明書
大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法 被災地短期借地権設定契約における契約書面
建築士法 設計受託契約等に係る重要事項説明書
高齢者の居住の安定確保に関する法律 サービス付き高齢者向け住宅に係る契約締結前説明書面

民間でも急速に普及が進む

上記の法整備を受けて、民間でも契約業務電子化への動きが活発です。

一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)による調査では、電子契約の利用企業は令和3年(2021年)の67.2%から令和4年(2022年)には69.7%へ拡大、検討中企業も含めれば84.3%に達するとのこと。

矢野総合研究所による電子契約サービス市場についての調査では、令和3年(2021年)について前年比38.6%増に拡大していることが明らかになっています。

電子契約の導入が進む業種は?

当然ながら、契約プロセスの電子化による恩恵が大きい業種ほど、早期導入に積極的です。契約業務の電子化に向けて、特に積極的な業種についてご紹介しましょう。

1.建設業

工事請負契約や手形取引の機会が多い建設業では、契約書交付に伴い発生する印紙税が、どうしても高額になります。

ただ、電子契約は印紙税の課税対象になりません。そのため、建設業はシステム導入による恩恵が、最も大きな業種のひとつです。

電子契約は印紙税の課税対象にならない?

印紙税法基本通達第7節第44条では、課税文書の構成要件として紙等に記載し作成されたものと明記されている。実際に文書が交付されていない電子契約ではそもそも課税原因が発生しない、と国税庁も公式に答弁した。

また、建設業の工事請負契約については、長らく建設業法において原則書面でのやりとりが義務づけられていましたが、平成30年(2018年)以降、経済産業省や国土交通省が電子契約を容認する声明を発表しており、これを契機として多くの事業者がシステム導入に踏み切っています。

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【参考記事】建設業こそ電子契約を導入すべき3つの理由【2023最新】

印紙税が高額になりがちな建設業は電子契約導入によるコスト削減効果が最も大きな業種のひとつ。ただ、建設業法との兼ね合いがあるため、導入するにも注意が必要。適法性について解説します。

2.不動産業

不動産取引は、一般的な動産と比べて取引金額も高額で権利関係/取引条件も複雑です。そのため、これまでは宅地建物取引業法(以下、宅建業法)のなかで、各種契約について書面でのやりとりが義務づけられてきました。35条書類と呼ばれる重要事項説明書類や37条書類と呼ばれる売買契約書/賃貸契約書がこれに当たります。

ただ、前項に挙げたデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律公布を受け、令和4年(2022年)に施行された改正宅建業法では、35条/37条書類について電子契約を認める記載が新たに追加されました。対面・押印同等の慎重さと効率化を両立すべく、急ピッチで改革が進む業種のひとつです。

3.金融・保険業

契約業務が多い金融・保険業でも、電子契約への切り替えの動きがさかんです。もちろん、大口融資の際など取り扱う金額が特に大きくなりがちな業界であるため、改竄リスクを心配する向きもありました。ただ、現代においては、電子契約のほうが書面よりむしろ安全性は高いという見方が優勢です(後述します)。

4.情報通信業や製造業でも

情報通信業や製造業も、電子契約の導入率が高い業種として名を連ねています。

前者は新しいITツールに対する現場の抵抗が少ない業種であること、また、建設業同様に業務委託契約を交わす機会が多いことが要因でしょう。

製造業もまた、業務委託契約のほか秘密保持契約(NDA)や生産提携契約(OEM)、労働者派遣個別契約など、膨大な契約書のやりとりを避けられない業種です。大幅な生産性向上を期待できるため、多くの事業所で契約業務の電子化が進んでいます。

電子契約の3大メリット

急速な法整備と普及が進む電子契約ですが、ここからはそのメリット/デメリットについて、あらためて整理してみましょう。

1.コスト削減

電子契約を導入することで、最も期待される効果は、やはりコスト削減です。

前述したように、請負契約や不動産売買契約、手形取引に課税される高額な印紙税の出費を抑えられるほか、紙や印刷・郵送費、書類の保管や廃棄にかかるコストを削減できます。

なにより、収益に繋がらないそうした作業に事務従事者の人手が割かれることも、大きなコストです。電子契約を導入すれば、スタッフはより生産性の高い業務に集中できるでしょう。

2.業務効率化

書面での契約には、郵送や直接の手渡しといった手順がどうしても必要になります。そのため、遠方の顧客とのやりとりとなれば、締結までに1週間や2週間を要することも珍しくありません。また、押印や照会のためだけに出社するなど、現代的な働き方にそぐわない事態もしばしば起こり得ます。

電子契約では、インターネットを介することで、申請から承認までのフローがリアルタイムで完結します。また、出張先や移動中、自宅からでも、時間やデバイスを問わず、対応/照会が可能です。契約プロセスがスピーディーになることで、受注率や成約率の改善も期待できます。

3.セキュリティ/ガバナンスの強化

セキュリティ/ガバナンスの大幅強化を図れることも、電子契約の大きなメリットです。

クラウド型電子契約サービスでは、電子契約書はクラウドサーバー上で保管/管理されます。照会や検索が容易になるだけでなく、原本の紛失・消失・盗難・持ち出しや情報漏洩といったリスクを抑えることに繋がります。そうした堅牢性から、災害や非常時への備え、BCPの一環として導入する企業も少なくありません。

併せて、契約プロセスの履歴が残ることで、透明性の確保などガバナンス強化にも役立ちます。

なお、電子契約のデメリットについては、記事末尾「よくある質問」にまとめていますので、そちらをご確認ください。

電子契約システム選定、3つのポイント

ひと口に電子契約といっても、さまざまなサービスが乱立しており、どれを選ぶのが最適か、お悩みの事業者さまも多いのではないでしょうか? ここからは、実際に選定する際のポイントについてお伝えします。

1.電子サインか電子署名か?

電子契約システムを選ぶにあたり、まず懸念すべきはセキュリティ面の安全性です。いうまでもなく、契約とは法的な効果が生じる約束を指し、契約書はそれを立証するものです。契約書に書かれた債権/債務が強制執行の対象になりうることを踏まえれば、高額な取引の契約書が消失あるいは改竄されるなどということは、絶対に避けなければなりません。

安全性の目安として、その電子契約システムが電子サイン電子署名、いずれに分類されるかは大きなチェックポイントです。結論からいえば、電子署名のほうが安全性は高くなります。

電子サインは、メール認証からデバイスへのタッチペンでの署名なども含む広範な概念です。一方、電子署名は、署名者が誰であるかを表示していること/文書の改竄が行われていないことを確認できるもの、と明確に定義されています(電子署名法第2条)。安全性について、その他の電子サインとは区別されていることがおわかりいただけるでしょう。

電子署名の仕組みは?

電子署名には、公開鍵暗号方式という技術が用いられる。この技術を利用した電子署名では、秘密鍵を知らない限り署名した文書の偽造や改竄、盗聴ができない。対して、ほかの電子サインは暗号化されていないため、偽造や改竄が比較的容易である。

また、電子署名では暗号化/復号の際にハッシュ値を生成する。ハッシュ値が一致していれば、電子契約書が改竄されていない証明になる。書面よりも改竄が困難であるため、よりセキュアな管理が可能となる。

公開鍵暗号方式

2.当事者署名型か事業者署名型(立会人型)か?

従来の業務フローを変えることへの抵抗は、社外だけでなく、現場レベルでも少なくないものです。また、電子契約の導入にあたっては、社内規定やマニュアルの整備まで検討する必要があるでしょう。

そうした課題を考えれば、まずなによりもシンプルで使いやすいことは、システム選定の絶対条件です。電子署名には二種類あり、それぞれ当事者署名型事業者署名型(立会人型)と呼ばれます。現在の主流は、使いやすさと安全性を両立した事業者署名型(立会人型)電子署名です(図2)。

事業者型署名

当事者署名型電子署名は、第三者機関である電子認証局から電子証明書を得る手順を経て電子契約を締結するというもの。なりすましのリスクが低く、より高い法的効力を持ちます。ただ、厳格な本人認証が必要であるため、手間と費用が必要です。

対して事業者署名型は、電子契約サービス提供事業者がクラウドを介して代理で電子署名をする方式です。本人認証の手間と費用が発生せず、より簡単に、スピーディーな契約締結が可能となります。

問題となるのは、事業者署名型電子署名の適法性です。令和2年(2019年)、総務省・法務省・経済産業省が事業者署名型について「サービス利用者が2要素による認証を受ける仕組みになっていれば十分な固有性を持つ」と答弁し、公に適法と認めました。これを受け、現在は使いやすく安価な事業者署名型の普及が進んでいます。

3.電子帳簿保存法への対応は?

導入する電子契約システムが電子帳簿保存法(以下、電帳法)の法的要件を満たしたものかどうかも非常に重要です。

すべての事業者の経理業務に影響するため、今般しばしば話題に挙がった改正電帳法。以前の記事でお伝えしたように、同法において対象となる書類は3区分ありますが、そのうち電子契約書を含む電子取引データの電子保存については、対応が困難な中小事業者が多いことから、2年間の宥恕措置が設けられていました。ですが、その宥恕期間が終わるまで、すでに間がありません。

令和6年(2024年)1月より、電子取引データについては電子での保存が義務づけられます。以後、印刷した書面を原本として保存する運用は認められません。

電子取引データの電子保存には、2つの法的要件があります。電子契約システム導入の際には、これらを満たしているかチェックする必要があるでしょう。

電子署名を用いたシステムで、さらにタイムスタンプ機能があれば、法的要件をクリアできるだけでなく、安全性もより高くなります。

電子取引データ電子保存についての要件は?

真実性……改竄されていないこと。タイムスタンプ付与、あるいは改竄できないシステム/訂正履歴が残るシステムでの保存

可視性……すぐにみられる状態にあること。ディスプレイやプリンタが設置されていれば問題ない

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【参考記事】電帳法対応は大丈夫? 文書管理システムを選ぶ3大ポイント

法的要件の難解さや新設された罰則から対応が難しい改正電帳法。同法改正内容まとめから法令に対応したシステムを選ぶポイントまで解説!

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よくある質問

Q電子契約にデメリットはありますか?
A電子契約はたいへん便利ですが、実際に運用するには取引先の承諾が必要です。現在、多くの法律で押印・書面の電子化容認が進んでいますが、相手方の同意・承諾がある場合に限る旨の但し書きがついています。
Q電子契約はすべての契約手続きに使えますか?
A急ピッチで法改正が進んでいるとはいえ、2023年10月現在においても一部、書面への押印が義務づけられた契約手続きも残存しています。例として、高い真正性が求められる公正証書を必要とする契約などがそれに当たります。具体的には、事業用定期借地契約(借地借家法23条)、企業担保権の設定又は変更を目的とする契約(企業担保法3条)、任意後見契約書(任意後見契約に関する法律3条)など。ただ、内閣や法務省は令和7年(2025年)までに公正証書のデジタル化実現を目指しており、将来的にこれらの契約手続きも電子化されることは既定路線といえるでしょう。

【参考】
・総務省/法務省/経済産業省「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)
・総務省「令和2年版 情報通信白書
・経済産業省「オンラインサービスにおける身元確認手法の整理に関する検討報告書を取りまとめました
・経済産業省「電子契約サービスに係る建設業法の取扱いが明確になりました~産業競争力強化法の「グレーゾーン解消制度」の活用~
・国土交通省「不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになります。~宅地建物取引業法施行規則の一部改正等を行いました~
・国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について
・国土交通省「宅地建物取引業法 法令改正・解釈について
・国税庁「コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い
・公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)「電子契約活用ガイドライン
・一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)「コロナ禍の長期化に伴い、企業の72.7%がテレワークを実施 電子契約の利用企業は69.7%に拡大
・一般財団法人 日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)「IT-REPORT 2021 Spring
・矢野総合研究所「電子契約サービス市場に関する調査を実施(2022年)

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