社会福祉法人甲山福祉センター 様
『人が人として人とともに豊かに生きる』を理念と定める社会福祉法人甲山福祉センター(以下、同法人)さま。
2011年に創立50周年を迎えた同法人の福祉施設は、重症心身障害児施設、知的障害児通園施設、保育所、特別養護老人ホーム、障害者・高齢者デイサービスといった事業から構成され、医療、福祉、療育、介護、子育て支援に関わる従業員数640名という大変大きな規模を誇ります。
各施設の管理システムは、介護・福祉施設向けソリューション「絆」に統一され、セキュリティを重視したネットワークでつながり、より効率的な運営を行なえるようになっています。
半世紀にわたり事業を進めてきた同法人の運営理念や実際の現場での活用などを詳しく伺いました。
法人名 | 社会福祉法人甲山福祉センター |
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創業 | 1961年10月23日 |
従業員数 | 640名(2011年現在) |
ウェブサイト | http://kabuto294.jp/(別画面にて開きます) |
ベストな選択なら環境の変化も必要なこと
福祉の現場だからこそ出来るIT活用を
導入前の課題
- システム入れ替え時の業務体制の変化を的確にサポートしてほしい
導入の背景
『今求められている福祉はなんなのか、常に考えている』
-甲山福祉センターさまの法人理念と運営方針についてお聞かせください。 -
法人理念として掲げている言葉の中に、「人として」という表現がありますが、これは健常者に限らず、子ども、障がい者、高齢者など一般的にハンディキャップを持つ人たちであっても、区別されることなく平等に人間らしく生きていける、という意味です。また、「人とともに」という言葉もありますが、いわゆる施設の隔絶した感覚ではなく、私たちの運営する施設の中にあっても、地域とつながり、人とつながりながら豊かに暮らす、ということを非常に大事にしていますので、理念として掲げています。子どもからお年寄りまで、障がいがあっても無くても、人の生涯全般に渡って援助の手を差し伸べていこう、というのが私たちの考えです。
法人事務局長 小谷地 健 様
ITの導入については、積極的に行なっています。設立当時と比べて、社会福祉の事業もそれを受けられる方々の生活の状況も、障がいのあり様もずいぶん変わってきていますから、それに応じて援助の仕方やサービスも変わっていかなければなりません。
今求められている援助はなんなのか、ということは常に考えて事業の展開を進めています。
導入のポイント
『環境が変わってもそれがベストであると信じ、管理職が率先してITを活用』
-ITを導入していく上で、重視したポイントは何ですか? -
特別養護老人ホーム甲寿園 園長
狭間 孝 様
2000年の介護保険施行当時は、まだコンピュータに馴染みのない職員が多く、「絆」にOCRの取り込み機能をカスタマイズで追加したシステムを導入しました。
そのほうが使いやすいだろうという判断だったのですが、OCR取り込みに時間がかかったり上手く取り込めなかったりと、かえって手間がかかり結局は手打ちで入力するほうが早かったのです。
そんなわけで長いこと「絆」の使い込みが思うように進まなかったので、内田洋行ITソリューションズ(以下、ITS。当時:ウエダコンピュータシステム)さんからの提案で「絆2015」に入れ替えたときに、OCRの取り込みはやめることにしたんです。
-それまでの業務形態と大きく変わることに、懸念はありませんでしたか? -
もちろん、当初は職員からも抵抗の声が上がりました。しかしそれは、これまでの環境と変わることに対して抵抗があるのであって、今までがベストな方法だというわけではないですからね。「絆2015」になって大変使いやすくなっていましたから、しばらく使ってみればOCR取り込みは必要ないことが理解してもらえるはずだと考えていました。
-普段コンピュータを使わない方が多い状況でどうやってシステムの利用を根付かせていきましたか? -
職員に対しては、まずは「使いなさい」と指示を出しました。もちろん「苦手だ」「使えない」「時間がないから覚えられない」という声は出ましたが、それでは前に進めないので、まず我々が率先してITを使う姿を見せるようにしました。また、今でもそうですが、勉強会を用意するなど、使えるようになる環境を作っています。
たとえば、ローマ字入力が苦手な人もいますが、カナ入力を許容せずにローマ字入力にしてもらうよう指導します。施設内の環境が全てローマ字になっているのだから、そちらを覚えてもらう方が結果的に早いのです。
今は、現場担当者に業務の基盤で「絆」を使って仕事をするという意識があるので、反発や混乱は意外と出てこないです。年配の方が途中採用で入られると最初はコンピュータを使うことに抵抗があるようですが、1~2か月で使いこなせるようになりますね。
導入後の効果
『情報管理とネットワーク構築により共有のスピードが圧倒的に上がった』
-「絆2015」の導入効果はいかがですか?-
まず、事務作業の時間短縮という面では明らかに効果が出ていますね。情報管理においては、紙に手書きで管理している頃に比べ、圧倒的に便利になってきていますし、職員のスキルもそれに合わせて上がっていると感じています。
法人の中でネットワークを構築し情報共有したことで、たとえばあるご利用者のことを理解し共通認識を持つまでのスピードも全然違います。その人にどんなサービスを提供すればよいのかという判断も、以前は1~2週間かかっていたものが、1~2日で行なえるようになっています。また、管理職が時間を調整して会議を開かなければ決まらなかったことが、各施設をネットワークでつないだことで判断や検討をメッセージのやりとりで素早く行ない、状況の共有も出来るようになっています。
今後の展開
『福祉の現場だからこそできるIT活用を』
-甲山福祉センターさまからITSに期待することはなんですか?-
タブレットの活用には魅力を感じていますね。場所を選ばない端末利用にはメリットがあると思っています。5年先を考えると、積極的に検討していかないといけないと感じているので、また相談に乗ってください。
また、情報分析面で考えていることがあるのですが、福祉関連での事故は、基本的には利用者の生活の中で起こる事故なので、介護者が記録して共有することが大事です。ヒヤリハットや改善の提案など、気づいたことの報告が毎日、職員から大量に出てくるのですが、これをしっかりと分析しサービスに役立てていかなければいけないのです。
このような情報を分類して効率よく分析できるようなシステムで良いものがないかと思っています。
-福祉施設のIT導入についてどのようにお考えですか?-
福祉の現場では、お風呂や食事など人の手で介助をする部分が大きいため、なかなかすぐにIT化に結び付く場面が少ないように感じられています。しかし、情報共有や利用者へのサービス提供にITを役立てる余地はまだまだあると思っています。
たとえば、福祉の現場で介助用のリフトや介護ロボットなどの機器を導入することに、利用者やその家族、職員からも「冷たい」「物を扱っているようだ」といった反対意見が出るのですが、介護者を助けるため必要な部分に機械を使っていくことは良いことであるはずで、少しずつ注目されてきています。
ITもまったく同じで、必ずもっとうまく利用されるときが来ると思います。鉛筆や筆を使うことが困難な人であっても、iPadを使って絵を描いたり写真を撮ったりすることができ、なんらかの表現をすることができるかもしれません。人の手や手書きのメモももちろん大事で、それにすべてITが取って代わることはできませんが、こういった体験をすることで、体が不自由な方でも楽しみを持つことができるかもしれないのです。
弱者にとってこそ、ITの技術はとても有用なものであると考えています。本物の山や海を観に行けるほうが良いのは確かですが、そう簡単に観に行けない方がiPadを使って自分で観たいものを観るという体験は、あったほうが楽しいんじゃないかと思います。体が元気で、手足も目も耳も自由に使える人だけではなく、そうでない方が情報を得たり表現するためにITを使っていくことが、福祉の現場なら可能なんじゃないかと思っています。
ITに携わる方はそういった部分にも目を向けていただきたいですし、私達の立場からもいろんなアイデアを出していかないといけないと思いますね。そんなアイデアをどう形にしていくのかというコラボレーションが出来るかどうかが、重要になっていくはずです。
2013年6月取材(記載内容は取材時の情報を元に構成されています。各種データや組織名、役職などは変更されている場合があります。)