「働き方改革」の意味と会社がなすべきこと

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株式会社YACコンサルティング
代表取締役社長
矢川 孝次郎 氏

労働力人口減少、「働き方改革」受け、人事制度改革5年計画の策定と実行を

 少子高齢化がいよいよ加速し、労働力人口が激減します。何らかのかたちで、その影響を弱めながら、少子高齢化、労働力減少に対応することが日本の最優先課題のひとつです。
 「働き方改革」というワードがにわかにクローズアップされ、政府の本格的な取り組む姿勢を明確にしている中で、会社・経営者の労働に関する認識と運営の意識改革が叫ばれています。女性や高齢者の就業率が低い原因は何なのか、労働参加率を向上させるために、どういう施策を実行すればいいのか。この発想が働き方改革の原点です。
 本セミナーでは「働き方改革」の意味と、会社がなすべき具体策とは何かというテーマにてお話しいたします。

 目次 

1.働き方改革は何を求めているか
 1.1 少子高齢化による労働力減少を見据え、働き方改革を実施
 1.2 政府の考え方:働き方改革の3つのテーマ
 1.3 政府の具体的実行計画:9つの分野で改革の方向性を示した
2.会社と従業員は何をすべきか
 2.1 社会構造変化と働き方の変化を会社と従業員が理解する
 2.2 働き方改革で起きること:新しい働き方が定着していない会社に若い人は就職しない
3.人事改革5年計画
 3.1 会社は何を変えなければいけないか
 3.2 なぜ5年計画か:計画策定のポイントと優先順位を押さえる
4.具体的な計画モデル
 4.1 人口減少時代の経営人事戦略を考える視点が重要
 4.2 人事戦略プランの目標と指標化の例:業務の見直しと業務フローの効率化
 4.3 労働力確保と生産性向上になすべきことの具体項目
 4.4 人事改革5年計画を工程表化する
 4.5 法令遵守の確認と対策:「労働時間管理」がすべての基本
 4.6 法令遵守チェックシートで確認、対応する
 4.7 労働時間の現状把握の具体化と対策例:すぐにできる対策と時間が必要な対策を分類し、スケジュール化する
 4.8 労働時間現状把握からはじまる労働時間管理の工程
 4.9 業務改善と新フローの構築:社内若手によるプロジェクトが効果的

働き方改革は何を求めているか

少子高齢化による労働力減少を見据え、働き方改革を実施

 働き方改革の目的は少子高齢化対策です。今後、少子高齢化がいよいよ加速し、労働力人口が激減します。何らかのかたちで、その影響を弱めながら、少子高齢化、労働力減少に対応することが日本の最優先課題のひとつです。国は具体的に取り組む流れを誘導するために法制化し、結果罰則ができたり、助成金の対象にしていくと考えるべきなのです。

 厚生労働省の資料によると、2014年の労働力人口は6,587万人でした。何もせずに放っておくと2030年には5,800万人になります。東北地方の人口の85%が減るのと同じですから、影響は大きい。2030年にも現在と、ほぼ同様の労働力人口6,400万人を確保するためには、どうしたらいいでしょうか。

 2014年時点で30代女性の就業率は約7割でしたが、これを2030年には85%前後にする。60~64歳の男性の約78%が今も働いていますが、これを90%にする。65~69歳の男性の就業率は約50%ですが、これを70%まで持っていく。そうすると、2030年の労働力人口は6,362万人になるというシミュレーションがあります。

 女性や高齢者の就業率が低い原因は何なのか、労働参加率を向上させるために、どういう施策を実行すればいいのか。この発想が働き方改革の原点です。

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(参考データ)労働力人口の想定と労働参加率目標(講演資料:「働き方改革」の意味と会社がなすべきことより)

政府の考え方:働き方改革の3つのテーマ

 国が実現に動いている具体的テーマは次の3つです。1つは女性や高齢者の「労働参加率の向上」です。具体的には同一労働同一賃金の促進、非正規労働者の処遇改善、長時間労働の是正などがあげられています。若い世代が正社員になれない、派遣が増えているといったことの解消も大きな課題です。

 2つ目は「業務効率の向上」。例えば5年後には団塊の世代が後期高齢者に到達しはじめます。要介護の家族を抱えた社員が多くなると仮定すべきであり、そうなっても会社が回るようにしたい。生産性の向上が喫緊の課題です。

 3つ目は若い世代があの会社で働きたいと思うような「勤務環境の構築」です。「若者雇用促進法」が順次施行されているほか、ハローワーク系でも、いろいろと法整備が進められています。

政府の具体的実行計画:9つの分野で改革の方向性を示した

 政府が法案化しようとしている具体策は9つの分野にわたります。

 同一労働同一賃金については国がヒアリングを始めました。長時間労働の是正についても労働基準監督署の動きが厳しくなっています。罰則付きの時間外労働の上限規制やインターバル規制の法制化も検討されています。前者は時間外労働の限度を年360時間、特別な事情がある場合でも720時間に設定しようというものです。

 柔軟な働き方についてはテレワークの拡大と兼業・副業の推進が検討されています。兼業・副業する社員が増えることで、会社に、いろいろなリスクが生じます。少なくとも情報漏えいに関する項目等を就業規則に付け加える必要があります。

 外国人の受け入れ・登用も考えなければなりません。相手国が変われば起きる問題が違いますから、いろいろと想定する必要があります。

会社と従業員は何をすべきか

社会構造変化と働き方の変化を会社と従業員が理解する

 社会構造と働き方が劇的に変化しますから、経営者、管理職、社員の全員が価値観を変えないと円滑に対応することはできません。個人も家族のケアをしながら働いたり、社外での多様な経験と両立しながら勤めたり、それぞれが考えながら、それぞれの人生に取り組んでいかざるを得なくなりました。皆さんの最初のお仕事は社会構造の変化と働き方の変化を会社全体に啓蒙していくことです。

働き方改革で起きること:新しい働き方が定着していない会社に若い人は就職しない

 時間管理をきちんとしていない、長時間労働を放置している、有給が取りにくいといった現状のままだと取り残される。国は長時間労働の是正から始めました。新しい働き方が定着していない会社には若い人は就職しません。そこに、ひとつのゴールを置いて会社の改革に取り組む必要があります。

人事改革5年計画

会社は何を変えなければいけないか

 こうした社会の変革を踏まえ、5年計画で自社の改革を考えます。働き方改革のロードマップが国から出ていますので、大事なところだけ抜粋しました。2017年度に準備して、2018年度から9分野について次々に法制化されます。こうした国の動きを踏まえ、会社は、どのような対応策をとればいいのか、お考えいただきたいと思います。

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会社は改革法制化で何を変えるか(講演資料:「働き方改革」の意味と会社がなすべきことより)

なぜ5年計画か:計画策定のポイントと優先順位を押さえる

 計画策定の第1のポイントは法制化項目のスケジュールと優先順位を押さえることです。まず長時間労働の解消対策と法令遵守が求められます。次に最低賃金引き上げへの対応。有給休暇の義務化や育児介護休暇の拡大への対応。法改正の動きを見ながら、有給休暇がとれる環境づくりを考えてください。

 次に同一労働同一賃金の話になります。これは焦らず急いでください。業務フローを確認せずに、同一労働同一賃金の定義はつくれません。具体的には現状把握→法令遵守の確認→方向性と具体改善ポイントの策定の順に進めます。

具体的な計画モデル

人口減少時代の経営人事戦略を考える視点が重要

 労務管理をきちんとしていない会社には今後は人が就職しなくなります。すでにハローワークは、そういう方向で動いています。若者雇用促進法で企業の選別が始まりました。かといって採用枠をゆるめて即戦力ではない人を採用すると人材育成投資が増えます。その辺を考えた具体的な経営人事戦略を最初に考えなければなりません。

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新たな人口減時代の経営人事戦略を考える視点が重要(講演資料:「働き方改革」の意味と会社がなすべきことより)

人事戦略プランの目標と指標化の例:業務の見直しと業務フローの効率化

 次に目標を立ててみてください。そのための指標として業務フローの効率化や業務改善への取り組みが重要です。

労働力確保と生産性向上になすべきことの具体項目

 働き方改革の3要素は「社風の醸成と役員・従業員の意識改革」「業務の見直し」「働き方改革に対応した労務管理制度・人事評価制度の確立」です。具体的な取り組み事例を紹介します。前ページの指標と合わせて作戦を考えていただくと、わかりやすくなります。

 人事改革5年計画の全体像:調査→なすべきことの策定→実施→定着と改訂

 私どもはお客さまに依頼されたときには、下のチェックポイントを全部整理していきます。皆さんも、この順番で自社のチェックをしてみてください。

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人事改革5年計画の全体像(講演資料:「働き方改革」の意味と会社がなすべきことより)

人事改革5年計画を工程表化する

 次に5年計画を工程表にします。[1]の現状把握・法令対応から始め、[2]社内業務の見直し、[3]業務改善整備、[4]新しい労務管理制度・人事評価制度の導入の順に進めます。同一労働同一賃金の対応は[3][4]で取り組みます。今後2年間で[1][2]はやっていただきたい。[5]新しい教育研修制度の導入、[6]社風意識改革は最初から節目節目で取り組んでいくという流れで青写真を描いていただければいいと思います。

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人事改革5年計画を工程表化する(講演資料:「働き方改革」の意味と会社がなすべきことより)

法令遵守の確認と対策:「労働時間管理」がすべての基本

 長時間労働を是正し、労働時間管理をきちんとさせようと労働基準監督署が動き出しました。労基のホームページから「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を、ぜひダウンロードして読んでください。これを守っているかどうかを徹底的に調査していますので、まずは労基対策が必要です。

 「タイムカード、ICカードなどの客観的な記録を基礎として確認、記録すること」と書かれています。「客観的なデータ」が強調されていますので、ご注意ください。

法令遵守チェックシートで確認、対応する

 ここで皆さんに気をつけていただきたいポイントが4点あります。

 1つは36協定、変形労働時間制などを届け出ていない会社は最初にチェックされます。特別条項が必要な会社は、きちんと出してください。

 2つは適正に記録された賃金台帳、労働者名簿の保管です。意外となされていません。賃金台帳では「管理職は、どうせ定額だから」と労働日数が空欄で出ます。ダメです。指導してください。労働者名簿を知らないお客さまも意外といます。

 3つは労働条件通知書、つまり雇用契約書ですね。パートの人でも必ず締結しなくてはいけません。結んでいないと必ず指摘されます。

 4つは労働時間の管理体制ができているかどうかです。細かく聞かれますので、会社のルールをきちんと整理しておく必要があります。

 表の上半分の項目が、まずチェックされます。備考欄の項目も、かなり細かく見られますので、確認しておきましょう。

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[参考資料]法令遵守チェックシートで確認、対応する(講演資料:「働き方改革」の意味と会社がなすべきことより)

労働時間の現状把握の具体化と対策例:すぐにできる対策と時間が必要な対策を分類し、スケジュール化する

 皆さん、全社員の月別の残業の推移などは、きちんと表になって出ていますか。断片的に知っていても、傾向と対策にはつながりません。例えば、所属別、職種別、全社、個別などの残業の推移がデータ化され、毎月作成される組織図、人員の配置表と照らし合わせて見ることができるようになっていなければなりません。

 よく散見される現象として、業績に関係なく特定の部署の残業が多い、特定の個人の残業や休日出勤が多い、特定の上司の部署の残業が多い、時差勤務をうまく使ってない部署がある、同じ人ばかりが休日出勤しているといったことがあります。これらをデータで裏打ちしてください。

 仕事の流れでボトルネックになっている部署があり、後工程を担当している部署が残業になることもあり得ます。勤務時間のつくり自体が硬直化している会社もあります。こうした現状に対して原因を突き止め、対策を考えてください。

労働時間現状把握からはじまる労働時間管理の工程

 労働時間管理は現状の把握・分析→改善プランの策定→労働時間管理ルールの策定→全社説明会の実施→継続のための仕掛けづくりの手順です。皆さん、納得しないと取り組みませんので、全社説明会を必ず入れてください。

 考え方を変えていただきたいのは、ひとつの会社で、いろいろな仕事をしているのに、なぜみんな同じ勤務時間、同じ休憩時間、同じ休日なのかということです。ここは柔らかく考えていただいて、「何本かの勤務時間・休日があってもいい」あたりから出発してはいかがでしょう。

業務改善と新フローの構築:社内若手によるプロジェクトが効果的

 次に業務フローの見直しに着手します。管理職は、きれいごとをいいますので、実務に近い人たちに問題意識を持って考えてもらってください。プロジェクトで取り組まないとナマの部分が出てきません。社内若手によるプロジェクトが効果的です。こうしたことを行って初めて時間外を削減する具体的なプランの作成・実行につながります。

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