『“IoT”で大きくひろげるビジネスチャンス』~モノづくりにおける変革のヒント~

株式会社日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング本部 本部長
デジタルイノベーション推進本部 副本部長
シニア・コンサルタント
石田 秀夫氏

IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~

2017年11月29日、「IoT(Internet of Things)」をテーマに、原価管理の方法や、IoT化やデジタル化、RPAなど最新のソリューションを新橋本社にて『製造ITフォーラム~Nov.2017~』を開催いたしました。
そのなかでも、IoT化やデジタル化は、ビジネスに大きな変革をもたらします。AI・ロボティクスなどの自動化を行うことによるオペレーションの効率化、商品や設備など様々なものが繋がることによりビジネスやビジネスモデル自体が変革していくことなどが考えられ、場合によっては既存業界が消滅する破壊的イノベーションをおこします。これらの変化に対して、どのように立ち向かうか事例を交えご紹介いただきました。


IoTとは何か

IoTで広がるイノベーション領域

IoTとは何かといえば、ものやデータ、サービスがインターネットでつながり、付加価値を生むことをいいます。例えば、ものと工作機械がつながればガタガタで調整が必要だったものがピタリと加工できたり、工作機械同士がつながれば寸法情報やデータをやりとりして精度の高いものがつくれたり、いろいろな価値向上が図れます。

IoTによって3つのイノベーションが起こるといわれています。1つは製品イノベーションです。IoTを活用することで、ソリューション型の商材が増えます。

2つはプロセス自体のイノベーションです。プロセスが改善・改革され、スマートファクトリーなどの止まらない工場、不良が出ない工場が出現する。製造プロセスだけでなく、サプライチェーンも効率化されます。

3つはビジネスモデルイノベーションで、ここが一番大きく変わります。基本的には売り方が変わる。例えば、ケーザーというドイツの会社は従来、コンプレッサーを売って儲けていました。今は製品とネットでつながっているので、ユーザーがどれぐらい使ったかがリアルタイムで把握できる。そこで従量課金に変えました。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

IoT化のねらいは? 何に貢献する?

IoTは何に貢献するかというアンケートで、日本はオペレーションの効率化/生産性向上に貢献できるという経営者が多く、欧米では新たな収益源の創出が多かった。やはり新たな収益源の開拓に、きちんと取り組んでいくことが大事です。いまや米国へ行く前、Uberをダウンロードしておく必要があります。Uberで呼ばないとクルマは来ないんです。タクシー業界は消えました。IoTによって、あっという間に風景が変わります。

日本のIoT先進企業ではコマツが有名です。建機やユンボにデータを収集して送る装置がついており、うまくビジネスに使っています。コマツは意思決定が早い。従来のままだと建機業界は沈没すると、コムトラックやスマートコンストラクションへと、大きくかじを切りました。コマツの会長は「IoTビジネスは成功するかしないかわからない。できるかできないかわからないときはトップがリスクをとって意思決定しないと、だれもやらない」と語っていました。

デジタルエコノミーに関わっている人たちも意思決定が早い。ベンチャーもベンチャーに出資するファンドも、そうです。例えば、IT技術とビジネスモデルを開発中の会社がファンドにプレゼンして72時間後に3億円が振り込まれたという話もあります。

IoT化のキーワード

キーワードが4つあります。第1 にコネクト、情報の連結です。企業と顧客、自社とサプライヤー、設備と設備を連結することで、例えば、大量生産かつカスタマイズが可能になります。第2 に自律化です。ロボット・生産設備の自動化と自律化が進展します。第3 に最適化。在庫や生産性の最適化だけでなく、ドイツではエネルギーの最適化という観点からゼロエネルギー・ファクトリーが計画されています。第4 に多様化。一人ひとりのために欲しいものをつくるとか、作業ナビやウエアラブル・ナビなどを整備し、ある程度のスキルがあれば、高品質のものづくりができることなどが考えられます。

IoT化で具体的にどんなことが変わるのか? 事例1 寸法合わせ加工

ドイツのヴィッテンシュタインは社員数300人弱の中小企業です。IoTを活用して工作機械と工作機械をつなげて、ノンバックラッシュ歯車という高品質の歯車をつくっています。前工程で片方の歯車をつくり、そのデータをセカンダリー(もう片方)をつくる工程へ送ります。それを調整加工すると、ぴたりと一致したものがつくれます。

自動車業界でIoT先進企業といえばマツダです。スカイアクティブという技術でエンジンなどをつくっています。エンジンのシリンダーの穴とピストンの直径をジャストフィットさせ、燃費が数十%よくなりました。

IoT化で具体的にどんなことが変わるのか? 事例2 カスタマイズ生産

顧客の望む仕様と設計データがつながり、こんな色・かたちにしたいという要望に応えます。たとえば、トヨタ自動車のi-Rordは自分だけのオリジナルなクルマをつくることができます。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

IoT化で具体的にどんなことが変わるのか? 事例3 自律的良化生産

例えば、アルミの製品を、どのように削ったら一番効率がいいのかは、これまでは生産技術者が考えていました。ところが、生産技術がわかっていない人でも大量のデータを活用することで、ある程度のレベル・品質が担保できるようになります。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

IoT化で具体的にどんなことが変わるのか? 事例4 ものづくりのオープン化・民主化

カブクという会社は世界中の中堅・中小企業を連結させ、顧客の要望に応えています。注文があると加工の順番を決め、世界300 工場から相見積もりをとり、工程ごとに最適の会社に発注、3Dプリンターなどを駆使して短納期を実現しました。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

IoT/ICT活用したビジネスチャンスと脅威

IoTを活用したビジネス拡大の5つのアプローチ

IoTを活用したビジネスを拡大させるために5つのアプローチが考えられます。1つ目はスマートファクトリーを追求していく、もしくはカスタマイズしたものを届けることです。

2つ目はカスタマーオペレーションモニタリングで、メーカーとカスタマーを連結させることです。一番身近な例はコピー機で、最近は紙やトナーがなくなる前に持ってくるようになりました。

3つ目はバリューエクステンションで、メーカーが顧客企業のプロセスの中に入り込み、モニタリングしてサービスやソリューションを提供することです。有名なのはGEのジェットエンジンです。どのように飛んだら燃費が一番下がるかを航空会社にアドバイスしています。

4つ目のスマートプロダクトは顧客の状態をリアルタイムで把握し、顧客に対して何かしらの新しい価値を提供することです。

5つ目はスマートマッチングです。シェアリングエコノミーが代表例で、空いている時間に仕事を入れ、空いているリソースを活用するために、ビジネスをマッチングさせることです。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

スマートファクトリー追求型

スマートファクトリー追求型は今の製造業でも実現しやすいと思います。例えば、ハーレーダビッドソンというバイクの会社はカスタマイズが進んでおり、一台ごとに仕様が違うといっても過言ではありません。従来はベテランの技術者でなければ応えられなかったカスタム仕様(オーダー)に対し、作業標準を整備し、作業員の目の前に作業指示を出すことで対応しています。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

カスタマーオペレーションモニタリング型

顧客の情報を取り、何かしらのサービスや付加価値を与えることです。ボイラの三浦工業は電話の時代からボイラをつないでメンテナンス情報を取っていました。ボイラの劣化・異常を察知すると保守し、故障によるボイラ停止を防いでいます。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

バリューエクステンション型

顧客のプロセスにある、あらゆる情報をICT でつなぎ、顧客の悩みを解決します。コマツが代表例で、測量・丁張から施工完了に至るまでICT 化しました。ドローンでスキャニングしてデジタルデータに置き換え、データ化して施工計画を立て、ICT建機を使って効率よく施工し、結果を測定します。施工プロセスが効率化され、工数・コストの削減だけでなく、安全性は向上し、初心者でも高難度の施工が可能になりました。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

スマートプロダクト型

BtoCビジネスです。例えば、グンゼはウエアラブルの下着を作成、姿勢が悪くなると肩こりするので、姿勢が悪くなると通知がくるシステムをつくりました。大塚製薬はベンチャーと組んで薬の中にチップを埋めこみ、飲んだら医師のスマホに通知がいくシステムをつくりました。患者の飲み忘れを防ぐとともに、服薬の時間帯・生活サイクルなどもわかり、最適な医療につなげるわけです。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

スマートマッチング型

リアルタイムに需要と供給をマッチングさせます。カブクは工作機械などの空いている生産設備を見つけて仕事を入れています。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

シェアリングエコノミー

一番多いのはシェアリングエコノミーで、クルマの移動であればUberが重宝します。クルマは高い割には稼働率が低く、自家用車の場合、数%といわれています。Uberは後で利用者から評価されますから、ドライバーはフレンドリーだし、いいクルマを使っています。しかも値段はタクシーの3分の1です。

中国では本当にいろいろなことが起きています。当社の上海のブランチは超高層ビルの37階にありますが、昼休みに下の階に降りるのが結構大変です。最近、昼になると地下や1階にあるレストランがつくった弁当を高層階に持ってくる弁当仲介業者が現れました。昼飯を食べたいというニーズと弁当を売りさばきたいというニーズをマッチングさせているわけです。空きとニーズ、供給と需要をくっつけることで、新たなビジネスが生まれています。

中小企業でできる新たなビジネスモデル

大阪・大正区の木幡計器製作所という17名の会社がブルドン管の圧力計をつくっています。圧力計が実際にどのように使われているのかを、とある駐車場に見に行ったところ、針は落ちているし、指しているところも全然違っていた。日常点検をきちんとやっていくためにはIoT化し、センサーを貼って飛ばせばいい、とひらめきました。点検は、できるし、いろいろなデータも取れます。

成功するポイントは何かというと成功するまでやり続けることです。シリコンバレーでも一発で成功することは、まれです。いろいろなことを試して、そのうちのひとつがあたればいいというのがIoTに関連するビジネスだと思います。木幡計器製作所は圧力計しかつくっていなかったので、圧力計のネットワークをつくるためには磁気センサーや無線通信装置の事業者の協力が必要でした。そのために走り回って協力を取り付けました。

いろいろな人と会うと、いろいろなアイディアをもらえるし、いろいろな連携ができる可能性があります。活動量と多様な人と会うことが大きなポイントです。木幡計器製作所はアナログ式圧力計をネットワーク化して監視システムを開発しました。自社で使用するだけでなく、外販にも乗り出そうとしています。中堅・中小企業であってもIoT、ICTは十分に活用可能です。決して大企業しかできないという話ではありません。

IoT/ICT普及で起こる伸びそうなビジネスモデル

IoT/ICT普及で起こる伸びそうなビジネスモデル

IoT、ICTの普及で起こるビジネスで大事なのは付加価値が高い分野に力を注ぐことです。スマイルカーブを見ると、研究、企画、ブランドといった前工程とアフターサービスという後工程が最も付加価値が高い。真ん中へんの組み立て、製造は、さほど高くありません。

従来、日本はハードの価値に重きを置いてやってきました。今後はハードにも取り組みっつ、お客さまや製品、取引先とつないでいくことで、付加価値の取れるビジネスが展開できると考えます。

講演資料:IoTで大きく広げるビジネスチャンス~モノづくりにおける変革のヒント~より

まとめ

自前主義捨て、スピード感を持て

その際、注意すべきポイントとして、1つは自前主義を捨てよ、ということです。今後は分野を問わずIoT、ICTは欠かせません。自社に、その能力がなければ他社から導入するしかない。自前主義に固執していたら、いつまで経ってもスタートできません。

2つはスピード感を持て、ということです。シリコンバレーから見ると日本はオールドエコノミー、スローエコノミーの世界です。「日本企業は見に来るばかりでビジネスが進まない」「意思決定できない」と見られています。IoTに取り組む際、人員は専任をあてなければなりません。兼務はダメです。スピード感がありません。

私が思うに、IoTは「今すぐ、憶せず、取り組め! IoT」の略です。人が動かないとイノベーションは起きません。ぜひスピード感を持って考え実行していただきたいと思います。


 講師ご紹介 
株式会社日本能率協会コンサルティング
生産コンサルティング本部 本部長
デジタルイノベーション推進本部 副本部長
シニア・コンサルタント
石田 秀夫氏

大手自動車メーカー入社し、エンジニアとして実務を経験。
2001年 ㈱日本能率協会コンサルティングに入社。入社後、生産部門及び開発設計部門のシームレスな収益改善・体質改善活動を主に企業支援を行う。「モノづくり」を広くテーマを捉え、トータル的なマネジメント改革に取組んでいる。
また、事業戦略・商品戦略・技術戦略・知財戦略を組合せた「マネできない ものづくり戦略」を研究・普及中である。
近年は、デジタルファクトリー化や、インダストリー4.0の研究、コンサルティングも行っている。
業界としては自動車・自動車部品・電気機器・半導体業界等の製造業を主に活動中である。

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