ICT導入による介護記録の効率化・業務改善ご紹介 ~総合記録シートを導入した理由とは!~

介護記録電子化の実践報告セミナー

2014年4月に新規オープンした川名山荘において業務システムの根本的見直しをおこない絆高齢者介護システム「総合記録シート」を導入されました。
ご検討から導入に至る経緯、システム選定のポイント、iPadを利用していくにあたり運用上工夫された点、介護現場での記録形態立案において苦労された点などを実際の経験を踏まえ現場の生の声として皆様に身近な内容でご講演頂きました。

社会福祉法人貞徳会
法人本部長
矢留 仁道 氏

早期にITC 化に取り組んだ

 明範荘は1962年(昭和37年)開業で、ことし57年目を迎えました。歴史ある施設ですが、未来を見据え早い時期からICT 化に取り組み、5年程前からiPadを使った電子記録に取り組んでいます。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

導入前の状況は?①:計画的に何年かに分けて導入した

 2004年に移築した際、LANでネットワークを組んでいたのですが、外部インターネットに接続せず使用していたため、使い勝手が悪く、2012年に社内ネットをオープン化しました。その際にファイアーウォールを設け、ウイルス対策も行いました。その後2013年グループウェアを導入。2015年、Wi-Fiの敷設工事を行うとともにiPadの介護記録ソフトを導入しました。一度に入れると予算的に大変なので、順番を決めて計画的にICT化を進めました。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

セキュリティー対策

 セキュリティー対策には富士ゼロックスのbeatを使っています。インターネット化を進めると職場規律が乱れるのではないかと懸念がありましたが、beatの機能に閲覧制限あり、必要なものは見られますが、ショッピングや個人のSNSなどに使おうとすると全部はじかれる設定にしてあります。
 サイボウズというグループウェアも利用しています。メッセージ機能を中心としたもので、情報の共有が楽になりました。
 夜、入居者に急変があった場合、以前は出勤しなければわからなかったのですが、現在は夜勤の職員が発信し、出勤時には全員が知っています。スケジュール機能も重用しています。全員のスケジュールを共有し一覧で確認できるので、会議や打ち合わせの日程とても決めやすくなりました。なおこれらの機能は自分のスマホで全部見ることができます。



講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

導入前の状況は?:手書きで介護記録を残した

 iPadを入れる前、手書きで記録していました。一度、介護記録の電子化に挑戦しましたが、いったんメモしたものをパソコンに入力しなければいけないので二度手間になり、倍の時間がかかりました。
 そのころ使っていた手書きのシートは下記のようなものです。水分、便などをチェックするだけで、たいして手間はかかりません。入力の手間の軽減だけを考えればわざわざパソコンに切り替える必要はありません。しかし、当時相談員をしていましたが、パソコンに記録をまとめることのメリットは職務上大きい効果があるとも考えていました。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

タブレットの利点は

 その利点は汎用性が高いことです。一般製品のため仕様のわりに価格は安い。カメラもついており、インターネットにも接続できますし、もちろんサイボウズも使えました。ご年配の方も今ではスマホを愛用してLINEなどを楽しんでおり、さほど抵抗なく受け入れられます。

導入前準備:ソフト選定のポイント

 タブレットであれば、ソフトはなんでもいいというわけではありません。最初に検討したソフトのトップメニューは食事や排泄のボタンが表示されているだけ。夕食を記録しようと思ったら、食事のボタンをクリックして食事の画面に飛び、さらに、そこから夕食の画面に飛ぶ必要がありました。記録を入れたかどうかも一見してわからず、確認もしづらいものでした。
 時間軸に沿って入力するソフトもありました。上記のソフトと同様、たとえば利用者Aさんの7 :00をチェックすると、別の画面に飛ばなければなりません。必要な情報は全部入っているのか、入力忘れはないのかといったことが確認しづらいのも問題でした。
 これらは、なんでも記録ができるものの、一方でどこまで記録する必要があるのか?必要な記録は入力済みなのか判りづらいものであると思われました。



講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

内田洋行の「絆 総合記録シート」に決定した理由

 いろいろとソフトを比較検討した結果、内田洋行の総合記録シート「絆」を採用することにしました。
「絆」にした理由は紙と同じデザインになっており、一目見てわかりやすかったことです。入力画面と帳票出力が、ほぼイコールなので、紙の感覚で、どんどん書いていける。現場の職員が上から入力していけばシートが埋まり、空いていれば入力漏れとすぐに判ります。シンプルな設計でありながら、介護業界で求める必要な項目を満たしており、これに決定しました。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

導入時の取り組み

 まずはソフトウエアの設定をしなければいけません。この初期設定の作業が一番頭を悩ませ、時間もかかる部分になりました。
 設定で一番難しかったのは、小項目群をどのように設定するかです。例えば飲み物の種類には水やコーヒー、ジュースなどありますが、これらを徹底的に細分化して集計する価値をあまり見出せず、むしろ入力作業が煩雑化してしまうのではないかと懸念しました。
 我々が欲しい情報は、糖尿病の方にジュースの水分提供が多すぎるなどと言ったことでないでしょうか。様々な専門職に話を聞くとコーヒーと紅茶は成分が違うという風にも言われましたが、嗜好品としてたしなまれる様子をまとめて取り扱いたかった為、あえて「コーヒー・紅茶・ココアなど」を一括りの項目に設定しました。
 この辺りの考えは施設ごとによっても変わってくると思います。ただし、コンピューターは「①水・お茶」「②コーヒー・紅茶・ココアなど」…と言った具合に、デジタルに扱う為、後でマスタ設定を変えてしまうと、過去のデータの意味が変わってしまうので、初期設定はかなり神経を使って慎重に行いました。

導入の経過~実際の運用は、どうだったか?~

 導入するにあたって、当然社員の皆さんから心配や不安の声が上がります。我々にとっても初めての試みなので当然不安がありましたが、実際はとてもスムーズに運用できました。事前にマニュアルを作り、説明会も行いましたが4月1日に一斉に紙からiPadに切り替えましたが、問題もなくスムーズに移行することができました。
 その後の入社した社員に対しても、簡単なレクチャーで使用開始することができ、マニュアルも要らないくらいです。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

導入の効果~どう業務が変わったか~

 効果は様々ありますが、入力の手間軽減やコストの軽減以上に効果を感じたのは、他職種連携の容易さなどから介護の質そのものが上がったことです。コンピューターの得意なことはインプット以上にアウトプットではないでしょうか。
 たとえば、○年〇月から〇月までの範囲で、褥瘡(じょくそう)を検索すると、あっという間に、褥瘡に関する、すべての記録がPC上で表示できます。個人別や時間帯別にソートするのもお手の物ですから、いろいろな分析が可能になりました。
 家族にも正確な情報を伝えられるようになりました。以前は、ひとつの事実を確認するだけでも走り回らなければいけなかったが、いまでは簡単に調べられます。iPadで記録を閲覧できるようになったのがとても大きいです。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

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導入の効果1~入居者への効果~

 排泄状況を1週間単位でグラフィカルに見ることができます。排泄の回数が減ったら、「水分の摂取量が少なくなっていないか確認したり、食事量との関連を調べたりといったことが簡単に行えます。いろいろなデータを照らし合わせて総合的に把握できるようになりました。その結果、ほとんど毎日のように下剤を服用していた人の使用回数・頻度を減らすなど、きめ細かい対応が可能になりました。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

導入の効果2~入居者への効果~

 ある日「食事介助したとき、むせたが見られたのでミキサー食に変更しました」という報告がありました。他の人に聞くと、あまりむせているのを感じたことがないと言います…こうしたときに「むせ」で記録を確認すると過去のデータが一覧化されます。こうした客観的なデータをもとに他職種と連携しながら、食事形態の変更をはかることができます。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

導入の効果3~入居者への効果~

 ご家族様にケアプランを説明する時にともすれば、体調が悪化したことを伝えるのに終始しがちではないでしょうか?レクリエーションの記録を参照し「3月に桜を見に行きました」「カラオケ大会では『北国の春』を歌いました」と報告できるととても喜ばれます。施設に対する安心感も増して、預けてよかったなと思っていただけるのではないでしょうか?

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職員募集のポスターにもiPadを使ったタッチパネル方式の採用をうたった

 早くからICT化に取り組んできたので、系列の特別養護老人ホームがオープンした際の職員募集ではiPad導入を求人広告に使いました。
 人手不足で採用人数は減っていますが、反応はよかったです。特に転職組のスキルの高い人たちに対しては、すごく訴求効果がありました。
 私たちは、せっかく取り組むのであれば質の高いサービスを提供したいと願っています。面接や採用の際、「質を維持するために、こうしたことに挑戦しています」というと、チャレンジ精神を持った前向きな人材が集まってくることを実感しています。

講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より

ICT今後の展開

 無線LANを構築したことで、新しく出た製品で大いに活用できるものがありました。
 一例として愛知県から助成金を受けて睡眠時のセンサーを導入しています。マットレスの下に設置したセンサーによって寝返り、呼吸、心拍などの回数を測定し、睡眠状態を把握するものです。これによりトイレ介助やおむつ交換、転倒予防から、看取り時の状態観察などが楽になりました。
 また、現在人材不足からにわかに外国人人材が注目を集めていますが、言葉の問題に大きな壁があります。これらを教育しないといけないと現在は考えられていますが、私は技術的に克服可能であると考えます。AI搭載の翻訳機能が実用化されれば、教育の問題から技術の問題へと変わり、いずれ数年後に克服されるでしょう。
 ICTの進歩は日進月歩です。人手不足の問題、技能実習生の問題など介護の現場が直面している、さまざまな課題・問題もICTの進展によって、その多くが解消される日は近いと思います。



講演資料:ICTの導入とその活用について~介護記録電子化の実践報告~ より


 
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社会福祉法人貞徳会
法人本部長
矢留 仁道 氏

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